ニュース 法律 作成日:2014年4月21日_記事番号:T00049852
知っておこう台湾法台湾最高裁判所の2013年12月5日の13年度台上字第4868号判決において、上場会社2社がそれぞれの間接子会社に関する株式交換の交渉中、確実に株式交換が実施されるとの予測が成り立つ「重要事実(有価証券の価格に重大な影響を及ぼす事実)」の公表前に自社株を買い付けた上場会社役員に対し、証券取引法第157条の1のインサイダー取引に当たると指摘した。
本件の審理の概要は以下の通りである。
上場会社A社、B社はそれぞれの間接子会社(C社およびD社)に関する株式交換の交渉に際し、A社、B社が確実に株式交換を実施すると予測が成り立つ「両社の董事長が株式比率に合意した」という重要事実の公表前に、A社董事長である甲が自社株式を買い付けたことが、証券取引法第157条の1のインサイダー取引に当たるとし、懲役1年6月(執行猶予3年)と、3,927万台湾元の罰金を科した。
台北地方裁判所は一審で以下の通り判示した。
証券取引法②第157条の1の規定によれば、有価証券の発行会社の特別な地位にある者が、「重要事実」を知り、当該重要事実が「確実」に実行されると予測できる(確実性の発生)場合、その重要事実が公表される前、あるいは公表後18時間以内(本件行為時には12時間以内)に、一定の有価証券の取引を行うことが、いわゆるインサイダー取引として、規制されている。
全体の経過を客観的に判断
重要事実は、通常、抽象的、一般的な方針の検討から会社の機関による最終的なものに至るまで、各過程における種々の決定が企業組織上の各段階において重層的に行われる。また、各過程、各段階での内容や実現可能性などは変化することがあり得る。そのため重要事実について「確実性」が生じたと言えるか否かは、一義的、形式的に判断できる性質のものではない。よって、重要事実の確実性がいかなる時点で生じたか否かは、全体的な経過を総合的に勘案して客観的に判断しなければならない。
本件では、C社とD社が株式交換を行うことについての意思決定の過程において、決定権限を有しているA社、B社の董事長が、株式交換比率に合意した段階で、確実に株式交換が実行されるとの予測が成り立つと判断される。そのため、この重要事実の公表前にA社株式を買い付けた甲の行為は、インサイダー取引に当たる。
台湾高等裁判所の13年5月21日の102年度金上訴字第14号判決は、一審の判決を維持し、甲の控訴を棄却した。甲は高裁の判決を不服として、最高裁に上告したが、棄却された。
台湾の証券取引法は、インサイダー取引規制において、重要事実についての確実性の発生という要件を設けているが、当該重要事実の成立や確定自体までは要しないことに注意する必要がある。
*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は弊事務所にご相談下さい。
コラム執筆者
黒田法律事務所 尾上由紀弁護士
早稲田大学法学部卒業。2007年黒田法律事務所に入所後、企業買収、資本・業務提携に関する業務、海外取引に関する業務、労務等の一般企業法務を中心として、幅広い案件を手掛ける。主な取扱案件には、海外メーカーによる日本メーカーの買収案件、日本の情報通信会社による海外の情報通信会社への投資案件、国内企業の買収案件等がある。台湾案件についても多くの実務経験を持ち、日本企業と台湾企業間の買収、資本・業務提携等の案件で、日本企業のアドバイザー、代理人として携わった。クライアントへ最良のサービスを提供するため、これらの業務だけでなく他の分野の業務にも積極的に取り組むべく、日々研鑽を積んでいる。
黒田法律事務所・黒田特許事務所
1995年に設立、現在日本、台湾、中国の3カ所に拠点を持ち、中国法務に強い。 現在、13名の弁護士、6名の中国弁護士、2名の台湾弁護士、1名の米国弁護士及び代表弁護士を含む2名の弁理士が在籍しており、執務体制も厚い。
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