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第171回 台湾液晶パネル産業の来し方・行く末/台湾


ニュース その他分野 作成日:2021年8月10日_記事番号:T00097710

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第171回 台湾液晶パネル産業の来し方・行く末/台湾

 台湾のICT(情報通信技術)産業が活況を呈している。世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に加えて、コロナ禍による巣ごもり生活とテレワーク(リモートワーク、在宅勤務)の浸透がパソコン、テレビ、ゲーム関連の需要を高めたことが大きい。

 台湾の半導体は今や世界最強といわれるが、こうした流れの中で、液晶パネルメーカーも業績は足元で好調だ。かつては「四大惨業」の一角を占めた台湾の液晶パネル産業。この好況期を契機に構造改革を進められるかが、生き残りの鍵になるだろう。

急速発展した液晶パネル産業

 台湾液晶パネル産業の歴史は、およそ20数年に及ぶ。1994年に聯友光電が第1世代の液晶パネルの生産を開始したのが嚆矢(こうし)である。その後1990年代末になると、家電メーカーや異業種からの参入が相次ぎ、2000年代初頭には8~9社ほどのメーカーが乱立した。そして、多くの台湾メーカーは当時最先端の技術を擁した日本メーカーから技術指導を仰ぐ形で液晶パネルの生産を立ち上げたのであった。

 液晶パネルの実用化を最初に果たしたのは日本メーカーだ。ただ1990年代後半からサムスン電子、LGエレクトロニクスといった韓国メーカーが液晶パネル生産を立ち上げたので、日本メーカーとしては日台連携で韓国に立ち向かうために、台湾メーカーに相次いで技術移転を行った。

 しかし、台湾メーカーのその後の発展スピードは、日本メーカーの想像の域を超えていた。2005年には、台湾全体の液晶パネルの生産額が日本を上回った。当時の台湾では既に半導体生産の技術的基盤があったことに加えて、パソコン、モニターといった液晶パネルの川下産業が発達していたことが、液晶パネル産業の急速な発展を可能にしたと考えられる。(1)

「四大惨業」の一角に

 しかしながら2000年代半ばを過ぎると、液晶パネルの川下産業であるパソコン、モニター、液晶テレビなどの成長が鈍化し、液晶パネルは需給の変動がサイクリックになる市況品としての性格が強くなる。またスマートフォンやタブレット端末など液晶パネルを必要とする新たな商品もこのころ登場するが、台湾の液晶パネルメーカーはスマホ、タブレット向けの高精細パネルを安定的に生産する技術力を持っていなかった。

 加えて2010年代に入ると中国で液晶パネルの生産が本格的に立ち上がった。当時、中国では液晶テレビの普及が本格化し、中国のテレビメーカー向けに液晶パネルを供給することで台湾液晶パネルメーカーは一時期潤っていたが、その販路も中国国産パネルに代替されるようになったのである。

 こうして高精細パネルは韓国および日本メーカー、標準品は中国メーカーというすみ分けが生じ、台湾メーカーの生存空間は縮まってしまった。2010年代前半は各社の業績が軒並み赤字に陥り、その当時に同じく業績が悪化していたDRAM、太陽光パネル、発光ダイオード(LED)と並んで液晶パネルは「四大惨業」の汚名を着せられてしまったのである。各社のリストラが進む中で合従連衡が生じ、台湾の液晶パネルメーカーは友達光電(AUO)と群創光電(イノラックス)の2社に事実上収斂した。

液晶パネル産業の行く末

 2010年代半ばには韓国メーカーが有機EL(OLED)の実用化を進め、パネルの大口ユーザーであるアップルも有機ELの採用を本格化させた。台湾液晶パネル産業の行く末は、ますます不透明となった。しかしそうした状況を一変させたのが、DXの進展とコロナ禍である。構造的な行き詰まりを見せていた台湾液晶パネル産業にとって、まさに追い風が吹いたといえるだろう。

 しかし追い風は、得てしてすぐに向かい風にかわる。台湾の液晶パネルメーカーは、この好況期の間に行く末を見定めておく必要がある。大まかには、二つの方向性が考えられよう。一つは、テレビやPC向けの成熟品市場で残存者利益(2)を追求することである。韓国および日本メーカーは、この分野からは既に撤退の方向である。したがって、ライバルは主に中国の液晶パネルメーカーだ。ただ中国メーカーは自国のセットメーカーへの供給を中心としている。つまり、韓国や日本メーカーが組み立てるテレビやPC向けには、台湾メーカーがベンダーとして活躍できる余地が大きい。

 もう一つの方向性は、車載用や医療機器向けなど企業間商取引(B2B)向けに活路を見出すことである。産業用のパネルは民生用のような大量生産にはつながりにくいが、カスタマイズの余地が大きいために付加価値(利益率)は高くなる。これらの分野を丁寧に対応していけば、ある程度の活路は見いだせるのではなかろうか。

 

出典:(1)台湾液晶パネル産業の発展の詳細は拙著、赤羽淳(2014)『東アジア液晶パネル産業の発展‐韓国・台湾の急速キャッチアップと日本企業の対応』勁草書房をぜひご参照ください。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b172105.html

(2)今後の高成長が望めない成熟品市場において、競争相手が撤退した後、残存した企業が市場を独占することで得られる利益を指す。

赤羽淳

赤羽淳

中央大学経済学部・大学院経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)を取得。株式会社三菱総合研究所にて、主に日本のモノづくり企業の海外進出コンサルティング業務(主に新興国)に従事。豊富な調査・コンサルティング経験に基づき、現在は中央大学にて、実践的な教育と研究活動に従事している。1997年に台湾総合研究院客員研究員、99年から2001年まで台湾師範大学、台湾大学経済系研究所へ留学経験あり。 論文多数執筆、著書に『東アジア液晶パネル産業の発展:アジア後発企業の急速キャッチアップと日本企業の対応』(15年6月、第31回大平正芳記念賞を受賞)、『アジアローカル企業のイノベーション能力』(19年2月、18年度中小企業研究奨励賞(経済部門準賞)を受賞)などがある。

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