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第166回 半導体最強企業・TSMCの強み/台湾


ニュース その他分野 作成日:2021年3月9日_記事番号:T00094977

台湾経済 潮流を読む

第166回 半導体最強企業・TSMCの強み/台湾

 台湾に特に興味のない日本在住の日本人でも知っている台湾の有名人や有名企業がある。一昔前は、親日家で知られた李登輝元総統(2020年7月30日没)やシャープを買収した鴻海精密工業だった。最近では、唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員とファウンドリー最大手、台湾積体電路製造(TSMC)がその代表格だろう。今月は、日本でもにわかに注目を集めるようになっている半導体最強企業・TSMCの強みに迫ってみたい。

世界各国がTSMCを頼る

 世界の半導体需要は足元でひっ迫している。第5世代移動通信(5G)の実用化やモノのインターネット(IoT)の進展に加えて、新型コロナウイルス禍のテレワーク(リモートワーク、在宅勤務)や巣ごもり需要(パソコン、ゲーム機など)を通じて半導体に大きなニーズをもたらしている。また自動車の分野でも、電気自動車(EV)による自動車の電子化、人工知能(AI)を活用した自動運転の実用化に向けて半導体が不可欠だ。

 こうした中、半導体メーカーはフル操業が続いている。半導体業界では、設計、前工程、後工程の垂直分業関係が構築されており、各工程にそれぞれ専業メーカーが存在しているが、特に前工程の受託加工を専業とするファウンドリーのTSMCには、設計メーカー(ファブレス)を中心に注文が舞い込んでいる。

 また、半導体関連のサプライチェーンを強化したい各国政府も、TSMCとの連携を深めようと必死だ。

 米国は24年の稼働を目標に、アリゾナ州にTSMCの半導体製造工場の誘致に成功した。日本では、今年2月10日にTSMCが茨城県つくば市に後工程の研究開発(R&D)拠点を設置するとの報道があった。またブルームバーグの報道(1)によると、欧州連合もTSMCに欧州域内に半導体工場の設置を働き掛けているとのことである。

「規模の経済」で圧倒

 TSMCが半導体最強企業といわれるゆえんは何か。一言でいえば、その生産規模と技術力の高さである。ファウンドリーの分野で、TSMCは実に50%以上のシェアを占めている。2位のサムスン電子のシェアが16~17%なので、TSMCはこの分野で圧倒的な規模を誇っていることが分かるだろう。

 半導体は固定費の割合が高い典型的な装置産業であるため、規模の経済が働きやすい。TSMCは他社に比べて、高い価格競争力を実現できるのである。

 また、半導体企業の競争力は微細化能力で決まるといわれているが、その点でもTSMCは抜きんでた技術力をもっている。

 微細化とは、おおざっぱに言えば一定面積の半導体チップの上により多くのトランジスタや配線を施す技術である。微細化が進めば、それだけ半導体の生産性が高まり価格競争力も向上するが、微細化するためには当然高度な技術力が必要となる。

 目下のところ、TSMCだけが5ナノメートル製造プロセスの量産化に成功しており、21年中には3ナノプロセスの量産にも成功すると見込まれている。

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 TSMCの強さを分かりやすく表現すれば、図表のようなサイクルを描くことができる。ファウンドリーに特化することであげた高収益(資金力)をもとに、積極的な研究開発投資を行い、技術力でも他社をリードしていく好循環である。

 こう考えると、中でも鍵となるのが「ファウンドリー」というビジネスモデルであることがうかがえよう。

ファウンドリー誕生の背景

 1980年代頃、世界の半導体産業は日本が牛耳っていた。日の丸半導体と言われ、当時の日米貿易摩擦の一因にもなっていた。TSMCが誕生したのは87年、ちょうどその頃だ。明らかに後発の参入である。

 一般に、後発企業は競争力のある先発企業に対して差別化をしなければ生き残れない。サムスンも半導体では日本企業より後発だが、サムスンはDRAM(2)の販路が大型汎用コンピューターからPCに切り替わるのをいち早く察知して、半導体事業を伸ばした。それに対し、TSMCはビジネスモデルで差別化を図ったのである。

 当時の日本企業のビジネスモデルは設計から製造までを一つの企業が行う垂直統合(3)であった。しかし、自社の製造能力でさばききれないプロセス加工は外注することもあったし、このころから米国西海岸を中心に設計専業メーカーが誕生した。TSMCのファウンドリーは、こうした垂直統合メーカーやファブレスの受け皿になっていったのである。

 ファウンドリーは、「受託加工」という点で鴻海に代表される電子機器受託生産サービス(EMS)のビジネスモデルに似ている。しかし、最大の違いは獲得できる付加価値だ。半導体の前工程は技術集約的で、研究開発投資もかさむ。この重要プロセスに早々と集中したのは、半導体ビジネスの本質を見抜いていたことに他ならない。まさに先見の明があったといえよう。

 国際社会で何かと弱い立場に置かれる台湾。その一つの強みが、民主化された社会だ。今そこに、TSMCを中心とした半導体産業が、もう一つの強みとして注目が高まっている。

出典:

(1)https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-02-11/europe-weighs-semiconductor-foundry-to-fix-supply-chain-risk
(2)Dynamic Random Access Memory
(3)半導体の分野では、IDM(Integrated Device Manufacturing)といわれる。

赤羽淳

赤羽淳

中央大学経済学部・大学院経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)を取得。株式会社三菱総合研究所にて、主に日本のモノづくり企業の海外進出コンサルティング業務(主に新興国)に従事。豊富な調査・コンサルティング経験に基づき、現在は中央大学にて、実践的な教育と研究活動に従事している。1997年に台湾総合研究院客員研究員、99年から2001年まで台湾師範大学、台湾大学経済系研究所へ留学経験あり。 論文多数執筆、著書に『東アジア液晶パネル産業の発展:アジア後発企業の急速キャッチアップと日本企業の対応』(15年6月、第31回大平正芳記念賞を受賞)、『アジアローカル企業のイノベーション能力』(19年2月、18年度中小企業研究奨励賞(経済部門準賞)を受賞)などがある。

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