ニュース その他分野 作成日:2020年10月13日_記事番号:T00092568
台湾経済 潮流を読む2005年から今日まで、台湾企業の中で最大の売上高を誇る鴻海精密工業。(1)世界的な経済誌、フォーブスのグローバルデジタル企業100傑では、第25位にランキングされた(19年)。(2)日本では、16年に倒産寸前のシャープを買収した台湾企業として有名である。電子機器受託生産サービス(EMS)ビジネスで、名実ともに世界的大企業となった鴻海だが、近年は事業構造改革を模索中だ。

10年に渡る事業構造改革
鴻海は現在、「3プラス3」という戦略を掲げている。この「3プラス3」とは、3つの新興産業(電気自動車=EV、デジタルヘルス、ロボット)と3つの新技術領域(人工知能=AI、半導体、新世代通信)を指す。いずれもこれからの市場の伸びが期待される分野であり、鴻海にとっても挑戦性の高いビジネスである。言い換えれば、鴻海は本気で事業構造の改革を図ろうとしているのである。
ただ鴻海の事業構造改革の試みは、「3プラス3」が初めてではない。10年前後には、鴻海は小売業への参入を盛んに試みていた。09年には、「飛虎楽購」という中国大陸向けのインターネット通信販売サイトを立ち上げ、10年にはドイツの小売大手メトロとの合弁で、メディアマルクト(中国語名:万得城)という家電量販店を上海に立ち上げた。また、12年には米国の家電量販大手ラジオシャックと、別の家電量販店「睿俠(ラジオシャックの中国語名)」を設立した。
こうした小売業への参入と並行して、ものづくりの分野でも鴻海は多角化を試みてきた。10年代前半には「八屏一網一雲」という看板を掲げて、デジタルエレクトロニクス製品を全方位的に生産することを宣言した。八屏は▽スマートフォン▽タブレット端末▽ノートパソコン▽発光ダイオード(LED)スクリーン▽オールインワン(モニター一体型、AIO)コンピューター▽ポータブルテレビ▽スマートテレビ▽電子ホワイトボード──、一網はネットワーク、一雲はクラウドを指す。また、自動車部品や医療機器など、従来のエレクトロニクスの範疇(はんちゅう)を超える分野へも積極的に進出している。
現在の「3プラス3」戦略は、これらの取り組みの延長線上に位置付けられるものである。
巨額な売上高と低い利益率
鴻海が事業構造改革に取り組む背景には、近年、その利益率が低迷していることが挙げられる。鴻海の主要財務データをみると、19年の売上高は約5兆3,000億台湾元を記録している。これは、日本円に換算すると約19兆円(1台湾元=3.6円で計算)であり、ソニーやパナソニックの2倍以上の規模となっている。しかし、売上高成長率は10年代後半から鈍化傾向にあり、19年は0.9%の伸びにとどまっている。また、営業利益も10年代後半には落ち込み、19年の営業利益率は2.2%にとどまる。総資産利益率(ROA)と株主資本利益率(ROE)も00年代末から傾向的に低下している。
こうした成長率や利益率の低下は、従来型のEMSビジネスの限界を示唆している。鴻海が行っている事業構造改革は、脱EMSの試みでもある。
シャープの経営資源を活用
すでに10年近く事業構造改革を模索している鴻海だが、16年のシャープ買収もその文脈で位置付けられよう。鴻海がシャープを買収した目的は、シャープの持つ経営資源にある。具体的に言えば、液晶パネルをはじめとする高度な技術開発力や「シャープ」という製品ブランドである。いずれもEMSを主体とした鴻海の弱点を補うことになる。
ただ買収当時のシャープは経営体力が弱っていたため、鴻海はまずその立て直しに注力しなければならなかった。鴻海から派遣された戴正呉前シャープ社長の陣頭指揮の下、シャープの経営改革は進展し、17年3月期に営業利益は黒字転換した。その後もシャープは20年3月期まで、安定的に営業利益を出している。
鴻海がシャープの経営資源を活用するのは、これからが本番となるだろう。「3プラス3」戦略の分野には、シャープの技術が生かされる分野も多い。またシャープブランド製品の販路を広げ、それら製品に鴻海が部品やデバイスを供給していけば、アップルへの依存度を下げることにもなり、鴻海の事業基盤の安定化にもつながっていく。また近年は、鴻海本体の研究開発(R&D)投資金額も急増しており、技術の共同開発といった点でもシャープとのシナジー効果が見込まれよう。
いずれにせよ、鴻海にはシャープの経営資源を有効活用して事業構造改革を成し遂げるとともに、台日連携の成功モデルを世に示してもらいたいものだ。
出典:
(1)天下雜誌「天下両千大企業調查排名」
https://www.cw.com.tw/cw2000/database/company/list?id=1
(20年10月2日閲覧)
(2)鴻海ホームページ「集團大事紀」
https://www.honhai.com/zh-tw/about/group-profile/key-milestones
(20年10月2日閲覧)
赤羽淳
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