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第162回 台湾は米国の衰退に備えよ/台湾


ニュース その他分野 作成日:2020年11月10日_記事番号:T00093070

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第162回 台湾は米国の衰退に備えよ/台湾

 去る11月3日に米国の大統領選挙が実施された。開票作業に時間を要したが、民主党のバイデン候補が過半数の選挙人を獲得し、勝利した。しかし、トランプ候補側も郵便投票による不正を指摘し、法廷闘争すら辞さない構えをみせている。これからすんなり政権移譲が行われるのか、あるいは一波乱あるのか。まだ予断を許さない状況だが、今回は米国の大統領選挙の結果を受けて、台湾の今後を考えてみたい。

トランプ政権は親台湾?

 一般に、トランプ政権は親台湾のイメージが強かったかもしれない。例えば本年8月、米台断交後では最高位の高官となるアザー厚生長官を訪台させた。台湾の新型コロナウイルス対策の視察が目的だったが、滞在中に蔡英文総統とも会談し、米台の協力関係を強くアピールした。また9月には、クラック国務次官を訪台させた。李登輝元総統の葬儀出席が目的だったが、この際も台湾と経済協力についての話し合いが行われたようである。

 しかし、トランプ政権下でのこうした動きは、全て米中対立の裏返しと見なければならない。2018年から始まった米中貿易摩擦は安全保障問題に飛び火し、トランプ政権は中国の華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)を米国市場から締め出した。また今年は新型コロナウイルスがまん延したが、それが中国の武漢から広がったこと、そしてその被害を最も受けたのが米国であることから、トランプ政権の対中攻撃は激しさを増していった。もっともこれには、劣勢が伝えられた自身の大統領選挙戦対策のために、あえて外敵をつくっていたという側面もあるのだろう。

 いずれにせよ台湾としては、こうした親台湾的な姿勢を額面通り受け取ることはできなかった。それは、米中対立の従属変数にすぎなかったからである。

米中対立は続く

 来年1月にバイデン政権が誕生すれば、米中関係はどうなるだろうか。元来、民主党は共和党に比べて中国に対して穏健とみられてきた。ただしこれまでの経緯を鑑みると、バイデン政権になったとしても、米中関係が雪解けに転ずる可能性は低い。その理由は主に二つある。

 一つは、過去の対中政策への反省である。オバマ政権までの対中政策は、米国が中国に積極的に関与(Engagement)することで、中国を国際秩序に引き込み、共存共栄を図るとともに、中国の民主化を促していくというものであった。しかし中国では12年に習近平が最高指導者になって以降、ますます強権的な性格が強くなり、力によって既存の国際秩序を破壊するような動きも目立っている。今回の大統領選挙戦においてトランプ候補は、オバマ政権の副大統領であったバイデン候補が当選すれば中国の台頭をますます許すことになると批判してきた。これを受けて、バイデン候補もテレビ討論会などで中国に厳しい姿勢を示しており、対中関係という点では両者に大きな差異は見られなかった。

 もう一つは、米中両国の経済力がいよいよ拮抗(きっこう)しつつあるという点だ。中国は既に世界2位の経済大国だが、30年前後には米国を追い抜き、世界一になるという予測もある。航空宇宙などいくつかの科学技術分野では、既に米国と同等の技術力を有する。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)のように、中国自身の経済力をもとに新たな国際秩序を構築する動きもみせている。民主党のバイデン政権であっても、こうした中国の動きを座視する余裕はないだろう。

米台関係の重要性は変わらず

 台湾にとって、米国との関係は国際社会における生命線である。米国は民主主義という価値観を共有し、国交がなくても武器の売却などを通じて体制を支援してくれる心強い味方である。1996年の直接民選による台湾総統選挙の際には、中国のミサイル訓練による威嚇に対抗して、米国は空母艦隊を台湾の近海へ派遣してくれた。これも米国が台湾を実質的には西側同盟の一員と見なしている証左である。

 今後も台湾にとって、米国との関係は大切だ。それは大統領が誰になろうと変わらない。おそらく米国も、台湾に再びアプローチをかけてくるであろう。しかし米国にとって、それはあくまでも対中関係のカードの一つに過ぎない。トランプ政権の4年間に米国自体が一国主義の内向き指向に変わり、また米国社会の分断も進んだ。バイデン政権になり、これらのほころびは多少立て直しがされるだろうが、中長期的にはこれまでと同じ支援や関心を米国が台湾に向けてくれると期待するのは危険であろう。

 台頭する中国と衰退する米国。2020年代はこの狭間で、台湾がさらに難しいかじ取りを迫られそうである。

赤羽淳

赤羽淳

中央大学経済学部・大学院経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)を取得。株式会社三菱総合研究所にて、主に日本のモノづくり企業の海外進出コンサルティング業務(主に新興国)に従事。豊富な調査・コンサルティング経験に基づき、現在は中央大学にて、実践的な教育と研究活動に従事している。1997年に台湾総合研究院客員研究員、99年から2001年まで台湾師範大学、台湾大学経済系研究所へ留学経験あり。 論文多数執筆、著書に『東アジア液晶パネル産業の発展:アジア後発企業の急速キャッチアップと日本企業の対応』(15年6月、第31回大平正芳記念賞を受賞)、『アジアローカル企業のイノベーション能力』(19年2月、18年度中小企業研究奨励賞(経済部門準賞)を受賞)などがある。

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