ニュース その他分野 作成日:2021年2月2日_記事番号:T00094536
台湾経済 潮流を読む去る1月中旬、鴻海精密工業が中国の浙江吉利控股集団(以下、吉利)と合弁会社を設立し、電気自動車(EV)事業への本格参入を表明した。吉利はスウェーデンの名門ボルボブランドを傘下に持つ中国の自動車メーカーだ。EV事業への進出をかねて検討していた鴻海が今般吉利と手を組んだ意図は何か。また5年前シャープを買収した時から、鴻海の経営戦略は急旋回したのだろうか。
EMS事業とEVの親和性
自動車産業は産業の裾野が広く、他の分野への波及効果が大きい。そして、部品と本体あるいは部品同士で綿密な擦り合わせが必要となるため、完成車メーカーを頂点にTier1、Tier2と垂直統合的な取引関係のサプライチェーン(系列)が特徴である。したがって細かい部品はともかく、完成車の生産やTier1のレイヤーに新規企業が参入するのは、これまで難しいと考えられてきた。韓国のサムスングループは長年にわたって自動車産業への参入を計画し、1998年に遂にサムスン自動車が生産を開始したものの、通貨危機の影響もあり、実質的に破綻している。
そんな状況を一変させそうなのがEVの登場である。EVの基幹ユニットはモーターとバッテリーであり、内燃機関を積む従来の自動車とはものづくりの仕組みが異なる。より具体的にいえば、各部品やユニットの独立性が高まり、従来の自動車生産のような擦り合わせの必要性は低くなる。そしてこのことは、EVへの新規参入のハードルを下げるだけでなく、エレクトロニクスでみられる垂直分業のビジネスモデルも可能にするのである。
EMSとはエレクトロニクス製品の加工、組み立てを担う受託事業だが、EVの本格的普及により垂直分業が広がれば、EMS事業に長けた鴻海にも十分に参入の余地が開ける。特に、自動車はエレクトロニクス以上に規模の経済が働くため、大量生産を得意とする鴻海の経験が大いに活きることになるだろう。
中国4位の吉利と提携
ところで数ある世界の自動車メーカーの中で、なぜ鴻海は吉利と組んだのだろうか。この問題は、まずなぜ自動車メーカーと合弁会社を設立したのか、そしてなぜ相手が吉利なのか、と分けて考えなければならない。というのは、単にEVの受託生産を行うだけであれば、必ずしも自動車メーカーと合弁会社をつくる必要はないからである。ここにはやはり、自動車産業に対する鴻海の深謀遠慮を感じざるを得ない。
自動車産業ではCASE(Connected=つながる、Autonomous=自動化、Share=シェア、Electronics=電動化)という潮流があるが、それは自動車という商品の競争優位がハードウエアよりもソフトウエアの側で決まる可能性を示唆している。そしてそうなれば、トヨタ自動車やフォルクスワーゲン(VW)といった伝統的自動車メーカーの覇権は崩れることもあり得よう。実際、トヨタの豊田章男社長は、「自動車産業は100年に一度の大変革を迎えている」と危機感を隠さない。世界で一番売れているEVは、2008年から自動車生産を始めた新興のテスラだ。このことは鴻海のような新規参入企業でも、中核システムさえ押さえれば競争優位を獲得できることを意味しよう。
とはいえ鴻海には、自動車産業のノウハウがあまりない。自動車はエレクトロニクス以上に安全性が重視される製品であり、本格参入するにあたっては経験のあるパートナーが必要なのだ。鴻海自身が中国に生産ネットワークを張り巡らせていることから、中国企業がパートナーとなるのはいわば必然の成り行きである。
吉利は中国の民族系新興企業であり、自動車生産の歴史は比較的新しいが、中国市場の19年メーカー別販売台数で第4位の規模を誇る有力企業だ。また創業者の李書福は、習近平主席とも親しい間柄とされる。さらに吉利は、これまで積極的なM&A(合併・買収)を展開して外部資源を取り入れてきている。鴻海は吉利の市場ポジションや企業体質などを総合的に鑑みて、パートナーにふさわしいと判断したと思われる。
脱EMSは変わらず
16年にシャープを買収して世間をにぎわせた鴻海だが、その経営戦略は抜本的に変わったのだろうか。第163回「鴻海・シャープ連合の共創モデル」(https://www.ys-consulting.com.tw/news/93567.html)で指摘したように、シャープ買収の目的は薄利のEMS事業からの脱却であった。鴻海はシャープの経営資源(技術開発力やブランド)を通じて、自身のビジネス領域をエレクトロニクス産業のバリューチェーンの垂直方向に延伸させて、付加価値を高めようとしたのである。
鴻海のEV戦略
しかし事業環境の変化は急速で、新たな付加価値獲得の方向性が出てきた。それが自動車産業だ。鴻海のEV戦略は、業種間をまたぐ水平方向の移動である(図表)。ただ方向性の違いはあるものの、脱EMSという経営戦略の本質はシャープ買収時と変わらない。CASEに象徴される次世代自動車産業では、確固たるプライムメーカーがまだ存在せず、その競争状況は多分に流動的だ。スピード経営を得意とする鴻海。これからの一挙手一投足が引き続き注目される。
赤羽淳
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