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第170回 覇権主義中国と台湾/台湾


ニュース その他分野 作成日:2021年7月13日_記事番号:T00097210

台湾経済 潮流を読む

第170回 覇権主義中国と台湾/台湾

 去る7月1日、中国共産党は創立100周年を迎えた。北京市内で行われた習近平・国家主席の演説は、随所に国力の誇示と共産党一党支配の正当性を盛り込んでいた。また、台湾統一は、中国共産党の歴史的任務だと強調した。こうした演説の内容は、おおかた予測されたものではあったが、改めて中国の覇権主義を示したといえよう。覇権主義中国に台湾はどのように向き合うべきであろうか。

習近平が抱えた課題

 中国の高度経済成長の嚆矢(こうし)は、1970年代末に始まった改革・開放政策である。時の指導者、鄧小平は厦門(アモイ)、汕頭(スワトウ)、深圳などの沿海地域を開放し、外資を積極的に呼び込んだ。また鄧小平時代の中国は、集団指導体制に移行し、諸外国との交流も徐々に進んでいった。そこには、文化大革命で中国社会を混乱に陥れた毛沢東時代の反省が多分に含まれていた。

 その後の中国は「社会主義市場経済」の看板を掲げ、イデオロギー色を少し弱めながら、市場経済メカニズムを積極的に導入していった。もともと大量の低賃金労働力を抱えていた国だったので、いったん改革・開放し、国際分業体制に組み込まれれば、生産拠点としての強みを発揮する。外資の技術力と中国の労働資源がうまく結び付いて、中国は高度経済成長を果たした。

 しかし、中国の高度経済成長の潮目が変わったのが2012年から13年頃である(図表参照)。くしくも習近平・国家主席が誕生したタイミングと前後する。中国が安定成長時代に入ったといえば聞こえはよいが、直近の1人当たり国内総生産(GDP)を国際比較すると▽米国、6万3,416米ドル、▽香港、4万6,753米ドル、▽日本、4万146米ドル、▽台湾、2万8,306米ドル──に対して、中国は1万484米ドルに過ぎない(いずれも20年の名目値)。中国は世界第2位の経済大国ということが強調されるが、国民一人ひとりの生活水準でみれば、先進諸国・地域との格差はまだまだ大きい。

/date/2021/07/13/30gdp_2.jpg出所:グローバルノート(2021年7月4日アクセス) https://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=8880&post_no=12798

 「人民を豊かにする」というミッションを負った指導者は、引き続き経済成長を追求するとともに、人民の統率を図らなければならない。なぜならば経済成長を通じて人民を豊かにすることこそが、共産党一党支配の正当性を裏付けるからだ。高度経済成長時代を終えた中国において、習近平政権は難しい課題を抱えているといえよう。

内向きになる中国

 来年には国家主席としての任期を終える習近平だが、続投する可能性が高い。18年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で、国家主席の任期を「2期10年」までとする規制を撤廃したからだ。世界は、これからも習近平指導の中国と向き合っていかなければならない。その意味で、7月1日の演説は、その本質を知る貴重な題材であった。

 演説で強調されたキーワードを筆者なりに挙げるとすれば、「共産党」、「中華民族」、「強軍」、「マルクス主義」である。共産党に関しては、これまでの経済・社会の発展は、全て党の指導のおかけだという趣旨が幾度となく強調された。民主主義に対峙(たいじ)して、体制の正当性を強調するためには、このロジックしかないといったところだろう。

 「中華民族」と「強軍」は、セットで注目したい。中華民族の偉大な復興は習近平が以前から掲げるスローガンだが、裏を返せば、それは中華民族がバラバラになることへの恐れと表裏一体だ。そこで大切な役目を果たすのが「強軍」、つまり強い軍隊である。台湾の武力統一を決して放棄しない姿勢や昨今香港で起きている情勢に鑑みれば、「中華民族」と「強軍」の結び付きは合点のいくところだろう。

 キーワードの中で最も意味深なのが「マルクス主義」である。実質的に資本主義にかじを切り、高度経済成長を享受した中国が、低成長時代を迎えるにあたって原理原則のイデオロギーを再び強調し始めた真意は何だろうか。これまでは経済成長という果実を与えることで人民の忠誠を得てきたが、これからはイデオロギーで人民を統率しようとするならば、まるで毛沢東時代への後戻りである。

 いずれにせよ、全体的には内向きのメッセージが多く、体制の引き締めに腐心している様子がうかがえた。

台湾に必要な姿勢

 とにかく「強さ」を内外に誇示して国威を発揚しようとする中国だが、グローバル社会は中国に対する警戒感を募らせている。それと並行して、グローバル社会の台湾に対する関心度も高まっている。世界が台湾を注視するという点において、実は台湾にとって現況は決して悪くない。台湾にとって大切なのは、世界の台湾に対する注目度をさらに高めていくことである。

 そのために必要なのは何か。それは台湾が小さいながらも高度に成熟した安定社会であることを内外にアピールし、諸外国からリスペクトを受けることである。台湾には既に民主主義が定着し、半導体のような世界を代表する産業競争力も備わった。

 これから求められることは、環境問題への積極的な対応と高度福祉社会の構築であろう。この二つは、台湾のみならず地球規模の課題である。こうした課題に台湾が積極的に取り組み、今回の新型コロナウイルス対応のように世界に対してモデルケースを示すことができれば、グローバル社会における台湾の価値はさらに高まり、彼我の異質性がより際立つことになるだろう。

 

出典:(1)グローバルノート(2021年7月4日アクセス)
https://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=8870&post_no=1339

赤羽淳

赤羽淳

中央大学経済学部・大学院経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)を取得。株式会社三菱総合研究所にて、主に日本のモノづくり企業の海外進出コンサルティング業務(主に新興国)に従事。豊富な調査・コンサルティング経験に基づき、現在は中央大学にて、実践的な教育と研究活動に従事している。1997年に台湾総合研究院客員研究員、99年から2001年まで台湾師範大学、台湾大学経済系研究所へ留学経験あり。 論文多数執筆、著書に『東アジア液晶パネル産業の発展:アジア後発企業の急速キャッチアップと日本企業の対応』(15年6月、第31回大平正芳記念賞を受賞)、『アジアローカル企業のイノベーション能力』(19年2月、18年度中小企業研究奨励賞(経済部門準賞)を受賞)などがある。

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