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第169回  正念場を迎えた台湾のコロナ対策/台湾


ニュース その他分野 作成日:2021年6月8日_記事番号:T00096595

台湾経済 潮流を読む

第169回  正念場を迎えた台湾のコロナ対策/台湾

 早期の水際対策やマスクの管理システム構築など、新型コロナウイルス感染症対策では優等生といわれた台湾。しかし、5月に入ってから感染者が急増している。4月末までの累積感染者数は1,100人余りに過ぎなかったが、6月4日で1万人を突破した。日々の感染者数も数百人を記録し、いまだに増加ペースは衰えの気配がない。台湾は今、新型コロナ対策で正念場を迎えている。

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ワクチン確保では後手に

 世界の主要国がパンデミック(世界的大流行)に苦しむ中、2020年初めからいち早く水際対策を施し、感染の広がりをコントロールしていた台湾は、これまでコロナ対策の優等生と見られていた。ところが今年4月下旬に、帰台した国際線パイロットが滞在していた桃園の隔離用ホテルでクラスターが発生して以降、北部を中心に瞬く間に感染が広がっている。まさに台湾は、感染症の恐ろしさを実証してしまった次第である。

 これまで効果的な手法で、コロナを抑え込んできた台湾。それが慢心を生んだのか、ワクチンの確保では後手に回っている。5月31日時点で台湾のワクチン接種人数は約41万人(1)。接種率は全人口の約1.7%に過ぎない。これは日本よりも相当低い数字である(日本は5月31日時点で、医療従事者と高齢者を合わせた累計接種回数が1,200万回を超えている)(2)。

 蔡英文・総統は、ワクチン供給体制に全力を尽くすとし、台湾製ワクチンの開発にも努めるとしたが、先は見通せない。中国は中国製ワクチンの台湾への優先的供給を行うというが、そこには当然政治的思惑が絡んでいる。一方で、日本政府は6月4日、ワクチン124万回分を台湾に供給した。ただこれには早速、中国が不快感を示している。

施策と行動変容が鍵

 いずれにせよ今後、台湾が感染を封じ込められるか否かは、ワクチン接種とともに台湾政府の施策と人々の行動変容に懸かってこよう。

 政府の施策という点では、リーダーシップの発揮と危機感を社会で共有するという明確なメッセージを人々に伝えることが重要だ。感染封じ込めと経済活動は基本的にトレードオフであり、両立はできない。従って政府は、最初に徹底した感染封じ込めを行い、その後に経済を回すという2段階で対応する方針を表明しなければならない。もちろん感染封じ込めの局面では、経済活動を一時的に止めなければならず、その間は対象事業者への手厚い補助金が必要となる。その際、金額の多寡もさることながら、迅速な配布が最も重要となってくる。

 こうした政府の一貫した方針があって、初めて人々の行動変容も生まれる。現在、台湾では全土で防疫レベル第3段階(レベル3)にあるが、既に自主的にロックダウン状態に入っている人も多数いるようで、街中は人影がまばらとなっている。台湾では台風や地震などの自然災害が多く、もともと人々は危機に敏感だ。スーパーマーケットでの買い占めなど、一部で混乱も生じたようだが、社会での危機感の共有という点では、今のところうまくいっているのかもしれない。

参考にすべき日本の失敗事例

 政府の施策という点では、日本の悪しき先行事例から数々の教訓が参考にできるだろう。先にも述べたように、感染封じ込めと経済活動は両立できない。従って、初動の感染封じ込め策は「早く」、「強く」、「短く」が原則となってくる。

 しかしながら、日本政府が昨年からこれまで行ってきた施策は、これとほぼ正反対であった。水際対策の実施は台湾よりも数カ月遅れ、お店には休業や時短営業を要請しておきながら、各種Go Toキャンペーンを展開するなど、政策の方向感(メッセージ性)が全く分からない状況が続き、国民の間にも戸惑いが生じた。そして緊急事態宣言の発出と感染の再拡大が繰り返されるようになり、長期にわたって自粛を強いられた国民の間には、何ともいえない疲弊感、虚無感が広がってしまったのである。

 総統が強い権限を持つ台湾では、日本よりも強い形式での政策発動が可能であろう。また台湾には、明確な行動基準が示された4段階の警戒水準も設けられている。そして台湾の人々の危機意識も、災害の多い自然環境により、普段から養われている。従って、台湾政府の感染封じ込め策が「早く」、「強く」、「短く」の原則を守ることができれば、特殊な変異株に見舞われるようなことがない限り、感染は比較的早く収まるのではないだろうか。逆に、日本と同じ轍を踏めば、感染拡大とともに、蔡・総統の支持率のさらなる急落もあり得よう。

 

出典:
(1)衛生福利部疾病管理署、COVID-19疫苗日報表
https://covid-19.nchc.org.tw/dt_005-covidTable_taiwan.php

(2)首相官邸ホームページ(2021年6月1日閲覧)
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html

赤羽淳

赤羽淳

中央大学経済学部・大学院経済学研究科 教授

東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)を取得。株式会社三菱総合研究所にて、主に日本のモノづくり企業の海外進出コンサルティング業務(主に新興国)に従事。豊富な調査・コンサルティング経験に基づき、現在は中央大学にて、実践的な教育と研究活動に従事している。1997年に台湾総合研究院客員研究員、99年から2001年まで台湾師範大学、台湾大学経済系研究所へ留学経験あり。 論文多数執筆、著書に『東アジア液晶パネル産業の発展:アジア後発企業の急速キャッチアップと日本企業の対応』(15年6月、第31回大平正芳記念賞を受賞)、『アジアローカル企業のイノベーション能力』(19年2月、18年度中小企業研究奨励賞(経済部門準賞)を受賞)などがある。

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