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第29回 ISPの法的責任


ニュース 法律 作成日:2008年9月10日_記事番号:T00010124

産業時事の法律講座

第29回 ISPの法的責任

 
 インターネット上での著作権や商標権の侵害案件が増加しています。これに伴い、経済部智恵財産局は「著作権法部分条文改正法案」を起案しました。インターネットサービスプロバイダー(ISP)は利用者がネットワークを利用して行った犯罪行為に対して法的責任を負う、というものです。しかし実のところ、この法案は最終的にはISPの責任を排除するものになっています。

 ISPは他者がそのネットワークを利用して行った犯罪に対して法的責任を負わなければならないのかどうかについて、当該法案には明文規定がありません。当該法案によると、ISPの法的責任については現行の法律規定で十分なため、当該法案によってISPの法的責任の度合いが高まるわけではありません。したがって、インターネット犯罪が発生した場合、ISPの法的責任は現行の民法と著作権法の規定によって判断されます。

海賊版に関する判例

 現行の民法上でISPが負わなければならない法的責任は、主にインターネットによって流通するデータ内容の検査義務から発生するものです。これまでにも、記録メディアの製作者にとって参考になるような判例があります。

 例えば、音楽CDの海賊版作成に関する案件で、裁判所は「当該音楽CDが海賊版であることを知りながら発注を受けることは、他社に対する権利の侵害を構成する」という判断になっています。また、マスクROMに関する案件では、「半導体メーカーが、マスクROMへの海賊版ゲームソフトの書き込みを防止したことは、注意義務を果たしたことになる」という判断によって、無罪判決が下されました。

 今後インターネット上の侵害案件が発生した場合、ISPの法的責任は、有効な防止処置を取っているかどうか、特定の犯罪事件、または重大な過失を知っていたかどうかにより判断されることでしょう。

「通知と取り下げ」で責任軽減

 智恵財産局が起案した改正法案では、「通知/取り下げ」(Notice & Take Down)といわれる新しい制度が採用されています。これは、検挙された場合、実質審査を経て権利の侵害が確認された場合、当該内容をインターネット上から取り下げるというものです。ISPはこの義務さえ果たせば、法的責任を免れます。

 法案では、情報を取り下げられた者が訴える制度、「回復通知」(counter notification)も設けられています。情報の回復を行い、他方に対して損害賠償を請求することができるというものです。

 この法案を見る限り、智恵財産局はインターネット犯罪に対し、なんら効果的な対処をしていません。ただ単に既に実施されている「通知/取り下げ」制度を法律で認めることで、ISPの法的責任を軽減しただけです。

 一方でこの「通知/取り下げ」制度によって、従来は法的責任を負う必要のなかったISPが、他者との法的紛争に巻き込まれたとしても、智慧財産局はなんら手立てを取らないことでしょう。


徐宏昇弁護士事務所
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