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第34回 被告の黙秘権


ニュース 法律 作成日:2008年11月26日_記事番号:T00011833

産業時事の法律講座

第34回 被告の黙秘権

 
 馬英九総統にとって最大の功績となると言われている陳水扁前総統の逮捕は、各界で多くの議論がなされています。支持か反対かは別として、誰もがそれを自分に有利なように働くように仕向けようとしているようです。

 報道によると、陳前総統は取り調べに対して「黙秘権」を行使し、検察の質問に答えず、自己の弁護もしていないということです。

黙秘権行使は有利か?

 刑事訴訟法の規定によると、被告は取り調べおよび審判の過程において、黙秘権を行使できます。裁判所と検察官は、開廷の際には被告が黙秘権を行使できることを必ず伝えなければなりませんし、刑事訴訟法は有罪が確定するまでは無罪であることを前提にしています。しかし、刑事訴訟中に黙秘権を行使することは、被告にとって本当に有利なことなのでしょうか?

 台湾の司法は、長期にわたる戒厳統治のせいで「専制主義」的色合いが濃く、過去数年にわたる司法改革にはそれ相当の成果がありましたが、過去に植え付けられた「被告は有罪」という観念をまだ色濃く残している検察官や裁判官がいます。

 「専制統治」という根本の原因がなくなった現在でも、裁判官にとっては、被告に罪があることを信じざるを得ない状況が少なくありません。なぜならば、裁判官が証拠の調査を厳格にすれば、警察や検察官(それらは時に司法訓練所、大学、大学院の先輩・後輩・同級生である場合が多い)の努力を無駄にしてしまい、結果として警察官や検察官の犯罪摘発に不利となってしまうからです。

「逮捕後の態度」が量刑を決める

 また、裁判官が量刑を決める際の要素として「逮捕後の態度」というものがあります。もし被告が取り調べ・審判中の協力を拒み、後に有罪と認定された場合、裁判官は「被告は罪を犯した後も悔い改めていない」と判断し、比較的重い罪を科します。

 したがって、黙秘権は確かに法律上認められている権利ですが、弁護士はその行使をあまり奨励しません。弁護士が被告の罪をどう判断しているのか、検察の証拠は十分なのかなどは別として、弁護士は通常、被告に対して検察または裁判所の取り調べには協力するように勧めます。

黙秘権は不行使が得策

 台湾の警察と検察は現在も「供述」に重点をおいており、被告が罪を認めれば、証拠の収集は適当なものになります。取り調べの段階で罪を認め、一審では有罪となるものの、その後供述を覆すことで、最終的には最高裁判所によって差し戻しの判断が下される事件が多いのはこのためで、それから証拠調査を行っても遅いのです。

 つまり、検察官と裁判官が被告に強制的に供述させたとしても、それが犯罪の認定に有利に働くとは限らないのです。

 裁判所が黙秘権を行使する被告に対して容易に罪を認定し、また比較的重い罪を科す現状においては、被告は黙秘権を行使せず、協力的な態度をとるほうが得策でしょう。


徐宏昇弁護士事務所
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