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第35回 贈与行為の取り消し


ニュース 法律 作成日:2008年12月10日_記事番号:T00012152

産業時事の法律講座

第35回 贈与行為の取り消し

 
 台北地方裁判所で先日、ある有名な慈善団体に対し、テレビ番組の元司会者、葉樹サン女史(サンはおんなへんに冊)が数年前に行った寄付を返却するよう命じる判決が下され、注目を集めています。

 葉女史は元夫の借金の保証人となっていました。しかし元夫による返済が滞ったため、借金の貸し手であった原告は葉女史に対して借金返済を求めて勝訴し、葉女史の財産に対する強制執行を行いました。しかし借金額が大きかったため、全額には届きませんでした。原告は強制執行の際、葉女史が慈善団体に対し多額の寄付を行っていたことに気付き、民法の規定に基づいて裁判所に対し、当該贈与行為の取り消しと寄付金の返却を要求しました。

無償での司会は寄付?
 
 一部の慈善団体の弁護士は公判で、「葉女史は金銭を寄付したのではなく、無償で司会者を務めたにすぎない。慈善団体が本来支払うべき司会者費用を葉女史は受け取らず、慈善団体は寄付を証明する領収書を発行しただけだ。本来の意味での寄付とはいえない」と主張しました。

 しかし裁判官は、葉女史は金銭を受け取ってから寄付したわけではないが、葉女史が国税局に所得税を申告する際、領収書を基に税額を控除していることから、司会者費用を受け取り、寄付したこととなんら変わりはないと判断。葉女史と慈善団体との間に寄付行為が行われていたことを確認し、葉女史の寄付行為を取り消し、慈善団体に対して寄付金の返却を命じました。

行為の取り消しができるケース
 
 この判決には、論理的に考えるべき問題点があります。法律の規定によると、▽債務者の法律行為に対価性がない場合(財産贈与・権利放棄・虚偽売買など)▽受け取った対価がそれ相当ではない場合(例えば、極度の安値で財産や権利を売買した場合)▽結果として債権者の損害となっている場合──、債権者は裁判所に対しその行為の取り消しを求めることができるとされています。

 もし葉女史が自らの財産から合理的な範囲を超える金額を慈善団体に対して寄付しているのであれば、裁判所はその寄付行為を取り消すことができるでしょう。しかし、葉女史は司会者費用を受け取っておらず、領収書を基に税額控除を申請しているだけです。それを「司会者費用を受け取った後に寄付するという行為と同じ」とすることはできません。たとえ裁判所が、葉女史が領収書を基に税額控除を行ったことを不当とするのであっても、慈善団体にその負担を強いるべきではありません。

 裁判所の考えに沿えば、もし葉女史が領収書を受け取っていなかったら、または税額控除を行っていなければ、寄付行為はなかったことになります。この場合と、事後に領収書を基に税額控除を行った場合とで、法律上異なる解釈をする意味はあるのでしょうか?裁判所はこの点を解釈できないと思われます。

 原告が主張している寄付額は大部分が、社会通念上、合理的とみなされる金額となっています。そのため、もしこの判決が判例化すれば、今後、慈善団体が寄付を受ける際には、「寄付者に債務があるか?いくらか?何年か後に裁判所に寄付金の返却を求められることはないか」などを調査しなくてはならなくなってしまいます。

 台北地方裁判所の裁判官はこの点を明らかにしていません。今回のケースでは、紛争が解決に至らなかったばかりか、新しい社会問題を作ってしまったともいえるでしょう。
 
徐宏昇弁護士事務所
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