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作成日:2009年7月14日_記事番号:T00016574
台湾経済 潮流を読む
第27回 対中経済交流を呼び水とした経済活性化の課題
~「差別化」を内包した「呼び水戦略」の必要性~
台湾当局は、対中経済交流の拡大・深化を通じて台湾経済を活性化しようとしている。直航の拡充、経済協力枠組み協議(ECFA)締結による関税・非関税障壁の削減、投資資金の相互往来に対する規制緩和、中台産業交流の推進など、台湾海峡を跨ぐヒト・モノ・カネ・情報の流れをできる限り円滑にすることで、中国経済の高成長の果実をできる限り掌中に収められるようにするというのが、馬英九政権の対中経済政策の柱であろう。さらには、それを呼び水として多国籍企業の対台湾投資、台湾企業と多国籍企業の中国など海外でのアライアンスを活発化させたいとの思惑もある。
こうした「呼び水戦略」の有効性を否定するつもりはまったくないが、小生が僭越(せんえつ)ながら個人的に台湾当局やエコノミストの方に最近申し上げているのは、「呼び水戦略」の有効性を高めるためには、対中経済政策以外の台湾の経済政策についても、もう少しアピールをした方がよいのではないかという提案である。
台湾の優位性アピールを
投資を台湾に呼び込もうとするためには、中国とは異なる優位性が台湾にあることを効果的に宣伝する必要がある。さらには、その優位性が今後も維持される、新たな優位性が台湾で生まれる可能性が高いことを投資家に確信させるための努力も求められる。
台湾の優位性は市場規模や労働コストといったものではなく、人材、産業集積、成熟度の高い消費者といった、数値化しにくく、説明がそう簡単ではないものである。ご本社に説明する際に、どう説明すればこういった台湾の優位性が伝わるだろうかと腐心されている読者も多いのではないかと推察している。
要は、「差別化」あってこその「呼び水戦略」なのではないか、というのが小生の見解である。無論、台湾当局が「差別化」につながる政策を何も立案・執行していないなどというつもりは毛頭ない。実際、「六大新興産業」振興策(医療・介護産業、バイオ産業、精緻農業、観光旅行産業、文化・クリエイティブ産業、グリーンエネルギー産業)が今年に入り打ち出されている。
また、「良質な人的資源育成・就業促進計画(培育優質人力促進就業計画)」も発表され、(a)インターンシップ・創業支援(b)教育強化(c)研究者・技術者の育成強化(d)大卒の失業者に対する教育訓練強化――の4つの角度から、高学歴人材のさらなるレベルアップが図られようとしている。サービス産業の輸出競争力強化を目的とした「サービス業発展プログラム」も行政院会(閣議)で7月9日に決定された。さらには、中国企業の対台湾投資開放業種の発表に続き、ECFAの開放業種、対中投資解禁業種の検討が今なされているが、その検討に際して、中台間の望ましい分業のあり方、すなわち彼我の優位性の違いの所在が意識されていることは間違いない。
目下検討作業中であるため、ないしは、中国との交渉が控えているため、こうした「差別化」のロジックに基づいた政策の喧伝(けんでん)が手控えられているのかもしれないが、イノベーション政策、新興産業・人材育成政策についても、台湾当局に多くの情報を発信してほしいと願うのは小生だけであろうか。
どこの国においても、自国の優位性に磨きをかけ、それを効果的にアピールすることが経済を活性化させるための中核的な課題であることは間違いない。今後の台湾経済の発展性、中国をにらんだビジネス展開における台湾の利用価値を説得的に論じるためには、これらの情報が決定的に重要だというのが小生の実感なのである。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟