10月28日、「友善関懐老人服務方案」が発表された。高齢者のケア・医療サービス、健康促進、社会への融合・参加に関する全面的な政策パッケージである。実施期間は2009年9月~11年12月であり、予算規模は75億台湾元(約210億円)とされている。
多彩化する高齢者サービス
台湾当局はこれまでにも、高齢化の急速な進行を受けて、それに対応した社会保障制度の枠組み整備やそれを支えるシルバー産業の育成を図ろうとしてきた。例えば、「加強老人安養服務方案」(98~08年:内政部)、「照顧服務福利及産業発展方案」(02~07年:経済建設委員会)、「新世紀健康照護計画」(01~04年:衛生署)、「我国長期照顧十年計画」(07~15年:内政部・衛生署)、国民年金制度の導入(08年10月1日~)などである。
ただし、これらの計画はどちらかといえば、心身状態の悪化した高齢者の介護サービス、高齢者の基礎的な所得保障に重点が置かれていた。今回発表された「友善関懐老人服務方案」は、健康な高齢者向けの関連サービスの整備が遅れているとの認識に基づき、高齢者の健康促進、社会参加などの面に関する措置が重視されている。例えば、(a)民間年金保険・長期介護保険の整備促進(b)住宅資産転換モーゲージ(Home Equity Conversion Mortgage)の導入検討※1(c)高齢者の終身学習環境・制度の整備(d)公共交通機関・施設のバリアフリー化などが進められる予定である。このように、台湾の高齢化対策はより多彩な内容へと発展しようとしている。
※1 62歳以上、かつ、資産価値が低い住宅の保有者向けに、住宅を担保に民間金融機関が融資する制度で、元利返済は借り手が死亡するか、借り手が他の住居に移転するまで繰り延べられる。公的機関は保険・債権買取の形で関与。
さらには、馬英九総統が公約で任期中に長期介護保険を創設すると約束し、08年12月からは行政院経済建設委員会がその企画を開始、原則として09年末までに「長期照護保険法」の草案を立法院に提出することが目指されている。09年7~8月には、初歩的な計画内容に関する座談会が開催され、計画の調整が図られている状況にある。
新たな日台アライアンスの契機に
このように馬英九政権下で高齢化対策が加速されようとしているが、それが今後の日台アライアンスの契機になるのではないかと考えている。
高齢化のペースという点で、台湾は急速に日本に近付いてきている。08年時点で台湾の65歳以上の人口比率は10.4%に達しており、17年にはその比率が14%と「高齢社会」と見なされる水準になる(国連基準、図表)。25年には高齢者比率が20%に達し、台湾は「超高齢社会」に入る見込みだ。介護保険制度や高齢社会に適合した商品・サービスに対するニーズの高まりは必至である。
しかも、今後、中国でも高齢化が急速に進展する。ただし、中国で介護保険制度が整備され、高齢者向け商品・サービスのニーズが本格的に高まるまでには、一定の時間がかかるだろう。中国の高齢者市場の本格的立ち上がりが始まる前に、台湾をそのテストマーケットの場にするとともに、人材を育成し、今後の中国進出に備えるという戦略には合理性があるように思われる。
また、台湾で介護保険制度や介護保険の適用対象となる介護用品・サービスの規格の整備に日本企業が参加すれば、今後の中国展開にとっても有利な環境を作り出しやすくなるのではないか。「懸け橋プロジェクト(搭橋専案)」などの形で、中台間の産業標準・規格の共通化に向けた取り組みが加速しているだけに、こうした期待も湧く。
日本産業界にも知的貢献の可能性
むろん、懸念材料が無いわけではない。例えば、最大の目玉になるであろう介護保険について言えば、第一に、持続可能な介護保険制度が形成されるかどうかが懸念されている。前回示したとおり、台湾の財政は決して楽な状況ではないし、健康保険や国民年金では積み立て不足の問題が指摘されている。第二に、介護保険制度を作ったとしても、関連の人材・産業が遅れており、十分にその目的を果たすことができないという懸念も聞かれる。台湾当局の取り組みがこれらの懸念解消の鍵を握ることは間違いないが、日本の産業界にも何らかの知的貢献ができるかもしれない。そして、そうした試みが将来の日台アライアンスの拡がりにつながっていくことを期待している。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟