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第35回  中国の経済成長の果実は台湾にどの程度落ちるのか?


ニュース その他分野 作成日:2010年3月16日_記事番号:T00021498

台湾経済 潮流を読む

第35回  中国の経済成長の果実は台湾にどの程度落ちるのか?

 
 旧正月も明け、ECFA(海峡両岸経済協力枠組み協議)の交渉、中国地方政府や業界団体が組成するミッションの台湾招聘の動きなどが再び活発化するようになっている。これらは周知のとおり、いずれも中国の高成長を台湾の経済成長に結び付けようとする馬英九政権の試みである。では、台湾は他国と比べてどの程度中国経済の拡大の恩恵に浴しやすいポジションにいるのだろうか。
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 仮に中国で1億ドル最終需要(消費や投資等)が増加した場合、他国の生産が何ドル増えるかをみると(図表1の中国の列を参照)、台湾は30万ドルと、日本の42万ドル、韓国の36万ドルに次ぎ、第3位となっている。日本、韓国のGDPの規模が台湾の約11倍、2.7倍であることを考えれば(2007年)、中国の経済成長が台湾経済に及ぼす影響の相対的な大きさは、日韓よりも相当大きいといえるだろう※1。

※1 なお、弊社の試算では、対中輸出により誘発された付加価値が台湾のGDPに占める割合は、07年時点で12.8%であった。日本の場合は2.0%、韓国の場合は5.1%(平塚宏和他「世界金融危機とアジア経済」(『みずほリポート』みずほ総合研究所、09年4月6日)。

 中国の輸入は資本財や中間財の比率が高いが、台湾は、日韓同様、中国に対して液晶パネルやIC、化学原料といった中間財、産業機械に代表される資本財を盛んに供給している。それゆえに、中国の成長が日本、韓国、台湾に与える生産拡大効果が、米国やASEAN諸国と比べて大きいと考えられる。

地味で地道な取り組み必要

 従って、既存産業の優位性を十分に活用し、中国の高成長の果実を今まで以上に享受しようとした場合、台湾内の中間財、資本財産業の競争力強化をいかにサポートしていくかが台湾の経済成長にとって大きな鍵を握ることが分かる。1)ECFAによる貿易障壁の削減・撤廃による価格競争力のさらなる強化、2)「懸け橋プロジェクト」を通じた台湾の川上産業と中国の川下産業の統合――といった方策のほかに、3)中間財メーカーの設備投資の遂行と環境政策との両立のための取り組み、4)液晶パネル等の中国への生産移管を見込んだ次世代産業の育成――などを着実に進めていく必要がある。1)2)といった対中経済交流政策は馬英九総統自ら説明会に参加するなど、世論の支持獲得に向けて精力的な取り組みが展開されている。

 一方、3)4)に代表される産業政策は地味かつ地道な取り組みが必要であり、確たる海図がないという難しさもある。政策執行力に対する信頼感の回復、対中経済交流政策に対する支持獲得のためにも、馬政権は後者の取り組みについて力をよりいっそう入れていく必要があるように思われる。

台湾の成功が日本に恩恵をもたらす

 台湾がその試みに成功した場合、最もその恩恵を受ける可能性があるのが日本である。図表1をみると、台湾での最終需要拡大により生産が最も増える国が日本だからである。台湾での1億ドルの最終需要増加は日本の生産を86万ドル拡大させる(2位は中国で56万ドル)。これは、日本から台湾にハイエンドのICのほか、半導体・液晶パネル製造機械、ウエハー、パラキシレン、鉄・非合金鋼の半製品といった、最上流に位置する製品群が大量に輸出されているからである。

 ただし、この予測は、現在の日台間の貿易構造、さらにいえば、東アジアの貿易構造が大きく変わらないことが前提である。台湾の競争力強化により、日本の対台湾輸出製品が台湾内での生産に代替されてしまえば、見通しは大きく違ったものになる。

 上述した台湾産業の課題は、まさに日本産業の課題でもある。日本の方がコスト高であり、技術的にも台湾以上にフロンティアを開拓しなければならないポジションにあるだけに、産業高度化の難度は高い。さらにいえば、財政的な厳しさを抱えているがゆえ、大量の政府資源を産業振興のために投じることも難しい。それは台湾の比ではない。日本こそアジアを梃子(てこ)とした成長戦略を実現するためにも、もっと国内の改革に真剣に取り組まなければならないように思える今日このごろである。


みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟

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