ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム グループ概要 採用情報 お問い合わせ 日本人にPR

コンサルティング リサーチ セミナー 経済ニュース 労務顧問 IT 飲食店情報

第30回 「出口戦略」と財政再建の行方


ニュース その他分野 作成日:2009年10月13日_記事番号:T00018502

台湾経済 潮流を読む

第30回 「出口戦略」と財政再建の行方

 
 9月16日、鳩山政権が発足し、旧来のシステムの改革が進められようとしている。公共事業、社会保障制度の見直しなど、財政再建と絡むイシューが次々と政治のアリーナに登場するに至っている。そうした財政再建の推進と、「二番底」の懸念も見据えた景気対策のあり方、さらには中長期的な経済発展戦略のあり方をめぐる個別具体的な政策論議が今後展開されていくことになりそうである。

 台湾でも9月23日に財政部から財政再建に関する中長期プランが発表されている。「中長程財政健全方案」である。元々馬英九政権は発足前から財政改革を進めるとの姿勢をみせていたが、このプランの重要性がいや増したのは、世界金融危機により台湾の財政状況が急速に悪化したからである。

 1990年代以降、台湾の債務残高の規模は拡大基調にあったが、08年度、09年度は世界金融危機を受けて大規模景気刺激策を発動したことから、その額が急速に膨らむことになった(図表)。その結果、「公共債務法」が定める政府債務規律規定に抵触する可能性が高まっているのである。具体的には、当該年度の中央政府債務残高が前3年度のGNPの年平均値対比40%を超えてはならないという同法の規定に対し、09年度には37.0%に達する見込みだ(財政部国庫署)。このままでは、「公共債務法」を見直すか、あるいは、現行規定を遵守するために景気対策の発動を控えるしかなくなることになる。
T000185021

 
日系企業にも影響の可能性

 この問題に対し、「中長程財政健全方案」では、各種財政再建策を発動し、上記の上限規定を維持するという方針が示されている。その案の中には在台湾日系企業にも影響を与える可能性があるものも含まれている。例えば、税制改正については、エネルギー税などの「グリーン税制」導入検討、総合所得税の課税範囲を属人・属地主義の併存性とすることの検討、13年からの営業税1%引き上げ検討などが提起されている。

 公共事業に関しては、愛台12建設の優先順位、経費支出額・執行スケジュール、資金源などの見直しを行うことがうたわれている一方で、財政資金を節約するために民間活力の利用をさらに急ぐ、国有地の民間への売却・リースを進めるといったビジネスチャンスにもつながる内容も盛り込まれている。

 これらの措置などを通じて、中央政府債務残高の対GNP比を12年度に何とか39.9%で食い止め、その後比率を徐々に落としていく、というのが「中長程財政健全方案」が描く絵である。

 しかしながら、まだ「出口戦略」について語るのは早く、営業税率の引き上げも景気との兼ね合いを見計らって行うべきであると呉敦義行政院長は語っている。また、台湾高速鉄路(高鉄)の経営問題では、採算性よりも選挙を意識したとも受け止められる発言が閣内から出ている。これらの発言から判断して、「中長程財政健全方案」が描くような形で、財政規律の引き締めが進むかどうかは予断を許さないとみたほうがよいだろう。

 ただし、政府債務残高の規模について言えば、台湾は経常黒字を続けており、公債の消化を外国投資家に依存する必要は乏しい。したがって、中央政府債務残高の対GNP比率が40%を超えたからといって、台湾がすぐに危機に陥るわけではない。

いずれ第二の日本に

 しかし、台湾の租税負担率(税収の対GDP比)は08年度で14.3%と主要先進国と比べて圧倒的に低く、その状況から脱却することは急務だ。租税負担率をそのままにしておけば、いずれ第二の日本になることは目に見えている。既存の社会保障関連基金の積立不足の問題への対応や少子高齢化による社会保障費用のさらなる拡大、格差拡大への対応など、財政支出の増大圧力は増えることはあっても減ることはないからだ。

 他方で、鳩山政権同様、経済活性化と財政再建を両立させなければならないという責務を馬政権も負っている。そこで問題となるのは、台湾経済の潜在成長率や自然失業率が一体どの程度なのか、格差をどの程度許容するのか、といった点についての社会的なコンセンサスである。成長率6%が正常だと考えるのであれば、カンフル剤を打ち続けなければならないであろう。世界金融危機は、台湾経済・社会の現状認識の再検討とその上に立脚した新たな経済戦略の策定を求めているのである。


みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟

台湾経済 潮流を読む