ニュース
その他分野
作成日:2010年1月12日_記事番号:T00020294
台湾経済 潮流を読む
第33回 「両岸共通標準」創設に向けた体制整備 〜第4回「江陳会談」の注目点〜
昨年12月に開催された馬英九政権発足後第4回目の海峡交流基金会と海峡両岸関係協会のトップ会談(江陳会談)で、農産品検疫・検査協力、漁船船員労務協力に加え、基準認証分野における協力に関する合意文書が調印された。特筆すべきは、官民挙げた中台共通の工業規格創設に向けた枠組みができたという点である。
台湾では、中国との工業規格の共通化を意識した動きが2000年代に入り、始まった。その推進母体は「華聚産業共同標準推動基金会」(名誉董事長は江丙坤氏、董事長は陳瑞隆・元経済部長)であった。同基金会が設立された背景は次のとおりである。
中国政府は「第10次五カ年計画」、「第11次五カ年規画」の中で独自の標準規格を作り出すことを目標に掲げてきた。それを通じて自国企業が中国市場を開拓する上で有利な環境を形成するとともに、いずれは国際市場開拓、技術輸出を通じたライセンス収入の増加を図るというのが、中国政府の狙いだ。こうした動きに台湾企業が積極的に参画し、台湾企業が持つ技術を中国の標準規格にすることができれば、台湾企業にも中国市場の開拓、技術輸出などの面で恩恵がもたらされることになる。
こうした思惑から「華聚産業共同標準推動基金会」が設立され、05年7月には、中国信息産業部(現在の工業和信息化部)の管轄下にある「中国電子工業標準化技術協会」「中国通信標準化協会」とともに、「海峡両岸信息産業技術標準論壇」を開催、07年までに4回の話し合いが持たれた。具体的には、発光ダイオード(LED)照明、グリーンエネルギー(太陽電池、電気自動車用バッテリー等)、AVS(Audio Video Coding Standard)、無線通信(TD-SCDMA等)、IPTV(Internet Protocol Television)、フラットパネルディスプレイ、モバイルストレージ分野での工業規格に関する協力の可能性について、議論が重ねられてきた。
民間ベースから政府ベースへ
ただし、あくまでそれは「民間ベース」での「業界標準」の共通化という次元にとどまっていた。しかし馬英九政権発足後は、「搭橋専案(架け橋プロジェクト)」などの下で、政府による積極的な支援が始まったばかりか、今回の合意により、さらに一歩進んで、「政府ベース」で中台共通の「国家標準」を形成するための枠組みが形成されることになったのである。また、上記の分野以外にも、電子ブック、テレマティクス、RFIDなどで規格分野での協力が行われていくもようである。
こうした中台の動きに対して冷淡な見方もある。「中台が国際標準となりうるような規格をつくり上げることは困難だ」「中国は欧州連合(EU)など他国とも同様の協力関係の構築を図っており、台湾とだけ協力するわけではない」といった見方である。
在台湾企業は情報感度アップを
こうした見方にもまったく根拠がないわけではなかろうが、日本政府、日本企業は、座視していれば今後脅威ともなり得る中台の規格共通化の動きをしっかりとウオッチし、それを踏まえた戦略を構築する必要がある。
例えば、日本政府はアジア太平洋地域との連携強化を通じ、より多くの国際標準獲得を図ろうとしてきたが、同分野における中台協力の動きを踏まえ、台湾との協力を通じた中国への浸透なども模索していくべきではなかろうか。
また、在台湾日系企業は、これから本格化するであろう中台の規格共通化に関する情報を最も入手しやすい立場にある。情報感度を高め、キーとなる台湾企業のアライアンス強化を図るなどの対応が求められよう。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟