前回は、ECFAの締結によって、日本の対中輸出にどの程度、どのような影響が及ぶ可能性があるのかについて検討した。今回は、ECFAが台湾の対中輸出の拡大を通じて日本の対台湾輸出をどの程度誘発するのかについて考えてみたい。
対中輸出増などによって台湾のGDPが拡大した場合、他の主要国に比べて日本は台湾への輸出が増えやすい(『Y’sNEWS』2010年3月16日)。しかし、ECFAは日本に対してそれほど強い誘発効果を持たない可能性が高い。それは日本の対台湾輸出品目構造を見ると分かる。
日本の主要な対台湾輸出品目には、半導体、および半導体・液晶パネルを製造するために用いられる資本財・中間財(具体的には、エッチング用やクリーンルーム、ステップ・アンド・リピート・アライナーといった産業用機械、電子工業用ウエハー、陰極銅、偏向材料製のシート・板など)が多く含まれている(図表)。従って、半導体が組み込まれるIT・デジタル関連財、半導体や液晶パネルなどの製品で、台湾の対中輸出が増加すれば、日本の対台湾輸出も増加しやすいといえる。
IT輸出の誘発効果弱い
しかし、中国はWTO(世界貿易機関)のITA(情報技術協定)に加盟していることから、半導体が組み込まれるIT・デジタル関連財のほとんどに以前からゼロ関税を適用してきた。また、半導体についても、同様の理由から中国政府は既に関税率をゼロとしている。液晶パネルについては、3%の関税率を中国政府は課しているが、液晶パネルはECFAでゼロ関税の適用対象にはならなかった。このように、ECFAは、これらのIT製品についていえば、台湾から中国への輸出拡大効果を持たない。それゆえに、ECFAが日本の対台湾輸出にもたらす誘発効果も弱いものになりやすいと考えられるのである。
一部品目では輸出増も
ただし、一部の品目については、ECFAによって日本からの対台湾輸出が増える可能性がある。例えば、ECFAの中国側リストには、化学繊維製品が含まれているが、それにより台湾企業のポリスチレン需要が高まり、ひいては日本製のパラキシレンの対台湾輸出が増加する可能性がある(パラキシレンは日本の第9位の対台湾輸出品目、図表)また、鉄鋼製品や銅箔(はく)類も中国側のリストに掲載されている。そのため、日本から台湾への鉄・非合金鋼の半製品、陰極銅の輸出が増加することも予想される(それぞれ日本の第5位、第11位の対台湾輸出品目)。中国側が開放した539品目が貴社にどのような波及効果をもたらすのか、検討してみてはいかがだろうか。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟