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作成日:2010年10月12日_記事番号:T00025824
台湾経済 潮流を読む
第42回 「日台合弁型中国現法」の生存率
国際経営学では、第三国企業同士の海外での合弁事業は、黒字比率が低く、生存率も低いといわれてきた。第三国企業同士であるため、投資先における情報の収集やその解釈の面で不利であること、そして合弁パートナー同士の文化も異なるがゆえにコミュニケーションの難度も高まることが、成功率の低さの原因だとされてきた。その学説のとおりだとすると、2005年末までに186件の日台合弁事業が中国で組成されているが、こうした戦略を取った企業は下の下策を採用したことになる。本当にそのとおりだろうか。
学説に反する高い生存率
こうした問題意識から、1990~05年までに組成された日台合弁型の中国現法の生存率(05年末時点)を調べてみた。その結果、生存率は88.2%であることが分かった。それに対して、東洋経済新報社が刊行している『海外進出企業総覧』に掲載されている日本企業が出資している中国現法(合弁等も含む)の生存率は79.8%であり、日台合弁の中国現法の方が生存率が高かった。設立された日が浅いほど生存率が高いことは論を待たないため、99年までに設立された中国現法に限定して05年末時点の生存率を調べたところ、日台合弁型の中国現法は78.0%、日本企業が出資している中国現法全体では68.4%となり、得られた結論は変わらなかった。
台商協会・信頼関係・ネットワーク移植
日台合弁型の中国現法の生存率が高かった理由として考えられるのは、次の3点である。
第一に、投資先の情報取得やその解釈をめぐる不利さに関しては、言語・文化の面で中国と近い台湾企業の力を借りることができるため問題が軽減される。しかも、台湾の統一戦略の一環として、中国政府は各地に「台商協会」の設立を認め、「台商協会」に籍を置いている中国地方政府の台湾事務弁公室系の関係者などを通じて、現地に進出した台湾企業に対して、各種経営情報の提供、日常生活からビジネス案件に関するトラブル処理などのサービスを提供している。台湾企業を通じて「台商協会」などが提供する情報を入手し、経営に役立てている日本企業も少なくない。
第二に、合弁当事者間のコミュニケーションの問題については、既に長期の取引関係を持つ企業同士が一緒に中国に進出するケースが多いため、既に相互理解・信頼関係が構築されていることで問題が軽減されている。また、長期の取引関係をもたない合弁ケースの場合、商社・大手メーカーなどが「仲人役」となり、信頼関係を支えているケースが多い。
第三に、台湾内で形成された産業ネットワークごと中国に移植されているケースも少なくない。生産場所が変わったとしても、取引相手が大きく変わることないがゆえに、こうしたケースに該当する日台合弁型の中国現法の生存率が高くなっている可能性がある。
従って、「日台合弁で中国に出れば、中国で成功する確率が高まる」というのは単純化されすぎた図式だといえる。無論、台湾企業の中には、中国語はもとより、日本語ができる人材が少なくないし、台湾人の対日理解度が高いことが、中国における日台アライアンスの組成に有利に働いていることは確かである。
ただし、台湾企業が相手であっても信頼関係の構築には時間やパートナー双方の努力が必要である。つまり、先人たちの異文化コミュニケーションの努力の蓄積が今日の日台合弁型中国現法の生存率の高さにつながっているのである。また、台湾企業が中国で強みを持っている分野でアライアンスを組むことが成功率を高める上で肝要である。これらのことを上記の生存率のデータは示唆していると解釈すべきだろう。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟