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第43回 中台投資保護協議の注目点


ニュース その他分野 作成日:2010年11月9日_記事番号:T00026411

台湾経済 潮流を読む

第43回 中台投資保護協議の注目点

 
 2010年12月に中台交流窓口機関のトップ会談(「江陳会談」)が開催される見込みだ。今回で第6回目となる「江陳会談」の焦点は二つだ、と伝えられている。一つは、医療分野での協議である。具体的には、漢方薬・新薬開発、臨床実験分野での協力、伝染病通報メカニズムの構築、医療観光面での協力について交渉が行われ、合意文書が発表されるのではないかと報じられている。そしてもう一つの焦点が、投資に関する協議である。

 2010年9月に発効したECFA(両岸経済協力枠組み協定)第5条では、1)投資保護メカニズム、2)投資に関する規定の透明度向上、3)双方の投資規制の漸進的な削減、4)投資の円滑化、について、発効から6カ月以内に交渉を行い、できる限り早く妥結させると規定されている。今回の協議も、ECFA発効を受けた動きと位置付けることができよう。

増える中台ビジネストラブル
 
 中でも台湾側が強く求めてきたのが、投資保護メカニズムの構築である。中国でビジネストラブルに直面し、海峡交流基金会に解決を求めている台湾企業は、対中投資の増加とともに増える傾向にある(図表)※1。とりわけ、民事トラブルなどにより台湾のビジネスパーソンが中国で身柄を拘束されてしまうケースは少なくない(図表中の「台湾人の人身安全関連」の多くがこうした事例)。また、土地の収用に遭っても、充分な補償が受けられないという問題も頻繁に指摘されている。台湾企業はこれらに代表される問題を、投資保護協議を通じて緩和したいと考えているのである。

※1 ちなみに、馬政権発足(08年)後、中国との交渉窓口としての海峡交流基金会の役割が強化されたことから、同基金会を通じた財産・法的権利関連のビジネストラブルの解決件数が急増していることが図表から読み取れる。
 
T000264111

 
 しかし、中国政府は「一つの中国」の原則を堅持していることなどから、台湾企業の中国内の投資財産は中国の国内法で保護すればよいとの立場を取ってきた。そのため、中台双方で合意した投資保護メカニズムは構築されてこなかったのである。だが、馬政権発足後、対台湾投資が部分的ながらも開放されることになったことで、中国政府は台湾との投資保護協議に前向きな姿勢を示すようになったと考えられる。

中台それぞれに対立点
 
 ただし、投資保護協議をめぐっては、中台間には対立点がある。

 台湾側は投資保護協議に国際仲裁を盛り込むことを求めていると伝えられている。その方が権利保護を図りやすいためである。しかし、「国家対国家」の紛争で通常準用される国際連合国際商取引法委員会(UNCITRAL)仲裁規則を、中台間でも準用することに対しては、中国側が反対する可能性が高い。「投資家対国家」の紛争についても、国際仲裁の道を開くことに中国側が反対する恐れがある。台湾問題を「国際化」することに対して強い抵抗感があるからだ。

 一方中国側は、中国の投資家に対する台湾側の差別的な措置の撤廃を求めている。通常、投資保護協定には、内国民待遇・最恵国待遇が含まれることが多い。しかし、それを認めると、台湾側は総合安全保障上の考慮から採用してきた対中差別的な投資政策を大幅に見直さなければならなくなるため、漸進的な規制緩和にとどめたい意向を持っている。この対立点がどのように処理されるのかも、大きな注目点となろう。

過度な期待は禁物
 
 在台湾日系企業にとっても、中台間の投資保護協議は基本的には歓迎すべき話であろう。とりわけ台湾子会社経由で対中投資を行っている企業にとっては、安心感が増すことになる。ただし、中台間の投資保護協議において、保護対象となる「台湾の投資家」および台湾投資家の「投資財産」がどのように定義されるかによって、協議の利用価値が変わる可能性がある。また、上述した国際仲裁を含め、紛争処理の具体的なメカニズムの内容によっても、権利保護の度合いが変わるであろう。

 さらにいえば、投資保護協議が締結されても、地方政府・裁判所が公平かつ迅速に紛争処理や権利保護を行わないという問題が中国にはある。こうしたことも合わせて考えるならば、投資保護協議により保護水準は高まるであろうが、過度の期待を持つことは禁物だろう。
 
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟

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