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第58回 「汚点証人」の誘惑


ニュース 法律 作成日:2009年11月11日_記事番号:T00019132

産業時事の法律講座

第58回 「汚点証人」の誘惑

 
 台湾の「汚点証人」制度は数年前に制定されたばかりの新しい制度であるため、社会的に深く理解されているとはまだ言い難いです。むしろ、誤った情報が流布した結果、誤解が生じています。捜査官が誤解に基づく「無知」を利用して、被疑者に証言(他者の犯罪経緯に対する説明)や自白(自らの犯罪経緯に対する説明)をさせることもあります。

よくある誤解

 こうしたケースは、被疑者がそもそも冤罪(えんざい)であったり、または法律上の「緘黙(黙秘)権」を行使しているため、警察側が証言や自白を得ることができない際に起きるのが一般的です。担当の司法当局者は被疑者に対して以下のように持ち掛ける可能性があります。「おまえの犯罪に関する証拠はすべて収集済みだ。だが最後のチャンスをやる。もし関係者(共犯または上位、下位関係者)の犯罪経緯について証言するなら、検察はお前に『汚点証人』となる機会を与え、起訴されても執行猶予、または起訴猶予、不起訴処分とするぞ」。

 被疑者は取り調べを受ける際、通常不安定な心理状態に陥ります。極端に意志が弱くなってしまっている場合は、こうした誘いを受け入れ、自分も他人もやってもいないことを認めてしまう可能性があります。証言すればすぐに家に帰ることができると思い込んでいるのです。

「汚点証人」になる条件

 しかし、「汚点証人」としての待遇を受けるための条件はそんなに簡単なものではありません。まず、「汚点証人」が供述する犯罪事実は「法律上の重罪」でなければなりません。一般の犯罪には「汚点証人」の価値がないからです。次に「汚点証人」の提供した証拠は、検察官が「犯罪を追訴できる」ものでなければなりません。

 しかし、ご存じのように、台湾は英米式の証人尋問制度を採用していますが、偽証が後を絶ちません。もし検察に対し、他者がやってもいないことを証言すれば、偽証罪で刑事罰を受けることになります。自らがやっていないことを証言した場合は、犯罪を犯した有力な証拠とされてしまいます。そうすれば最高の弁護士を雇ったとしても無罪放免を獲得するのは難しいでしょう。

安易な証言が後悔を招く

 不安感や恐れから他者(通常は親せきや親友)がやってもいないことを証言すると、信頼を失って深く後悔することになります。

 「汚点証人」は司法当局が犯罪を摘発する手段であるとともに、犯罪に協力した者にとっても有利な機会を与えるものです。

 しかし、これを刑事事件の捜査から逃れるための機会と勘違いし、偽証や偽りの自白をしてしまうと、その結果は想像するに難くありません。刑事事件の取り調べを受ける際には絶対に乱用してはなりません。


徐宏昇弁護士事務所
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