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第60回 リコーと広明光電の訴訟から


ニュース 法律 作成日:2010年2月24日_記事番号:T00021086

産業時事の法律講座

第60回 リコーと広明光電の訴訟から

 
 日本のリコーと台湾の広明光電(クアンタ・ストレージ)の間で争われていた特許訴訟で、米ウィスコンシン州連邦地方裁判所の陪審団は2009年11月20日、広明光電の光ディスクドライブがリコーの特許を侵害していると認定し、賠償金1,450万米ドルの支払いを命じました。

 リコーと広明光電の間の特許侵害紛争は03年の段階で既に始まっており、双方が度重なる交渉を行ったにもかかわらず結論が出なかったため、リコーは06年秋、ついに提訴に踏み切ったという経緯があります。

 しかし、連邦地方裁判所は07年秋、リコーが立証責任を果たしていないとして、リコーの要求を棄却する略式判決を下しました。これを不服としたリコー側が上訴した結果、08年12月に上訴裁判所は地方裁判所の判決を破棄して差し戻し、今回の判決につながりました。

 日本企業と台湾企業の間の特許紛争が話し合いによって和解に至ることはほとんどありません。このことは台湾のハイテク産業発展史を振り返れば、当然のことのように思えます。

和解困難の背景に歴史的経緯

 通常、台湾企業には新技術、新製品を開発する能力はありません。台湾には確かに多くの生産量世界一の製品がありますが、通常それらは台湾企業が自ら開発した技術ではありません。台湾企業が得意とするのは生産技術、つまり、超低コストで高品質の製品を生産することです。このような「世界一」の製品は、先行する同業者が既に生産停止、さらには販売終了したものが多いのも事実です。

 こうした状況から、たとえ生産量世界一の製品であっても、先行同業者の特許を使用することになります。台湾企業はそのことを知らないわけではありませんが、これをクリアするには相当の調査時間とコストがかかります。

 また、台湾企業も特許を申請しないことはありませんが、対象技術はどれも基礎技術ということはありません。先行同業者が特許権侵害を主張してきた際に、クロスライセンスを要求し、権利金を抑えることも難しいものがあります。なぜならば、当該製品は既に製造されていないため、相手方が台湾企業からライセンスを取得する意味はないからです。

 これらの問題を考慮した結果、台湾企業は「とにかくやってみる」が最良の戦略と考えるに至るのです。製品が他社の特許を使用しているかどうかにかかわらず、とりあえず製品を市場に出し、同業者が権利金を求めてきた際にはその時また対応すればよいと考えるのです。

早期解決には「台湾理解」が不可欠

 このような考えに基づいているため、特許権者が権利を主張した場合に台湾企業がよく見せる対応は「時間稼ぎ」です。とにかく何とかして「どうにもならない」状況まで交渉を引き伸ばします。ここでいう「どうにもならない」状況とは、裁判所の判決が確定し、カネを払わなければならなくなる状況のことです。権利者が権利金を早期に回収したい場合は、交渉期限を設け、適当な時期に訴訟を起こすことが望ましいといえます。

 筆者は広明光電がリコーとの交渉に、このように当たったと言っているのではありません。ただ、ここ数年、台湾企業が日本・米国での特許侵害訴訟で、巨額の賠償を支払わなければならない判決が続いている事実から、台湾企業全体の傾向としては筆者の考察は間違っていないと考えます。

 台湾企業と交渉する際には、台湾企業の特性と紛争対応の手法に対する深い理解がなければ問題解決の道筋は付けられません。日本企業の間で行う交渉手法にとらわれていては、満足のいく結果を得ることは難しいといえるでしょう。


徐宏昇弁護士事務所
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