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第67回 「諫死」事件にも法的対策は可能


ニュース 法律 作成日:2010年6月9日_記事番号:T00023264

産業時事の法律講座

第67回 「諫死」事件にも法的対策は可能

 
 台湾系大手企業の中国工場で従業員が相次いで自殺するという事件が世界の注目を集めています。報道によると、中国政府は騒ぎが拡大することを防ぐため、一切の報道を禁じたとのことです。また企業側が1週間に2度の大幅な賃上げを発表したことは、連続自殺事件の再発と従業員の流出防止を図ったものとみられています。

 中国社会ではある種の自殺を『死諫(日本語では「諫死=かんし」)』と呼びます。これは強権社会において不当な迫害を受けながら抵抗できない人間が、死をもって不公正な社会に抗議し、問題の重要性を喚起するというものです。

 この世で最も大きな犠牲は「命」と言えます。そのため諫死事件が発生すれば、当局は事件を重く見て対策を取らなければなりません。

 30年前、筆者は軍事法廷関係施設で兵役に就いていました。当時、台湾の軍隊は強権的な管理方法を採用していたため、内部の問題を上層部に訴えることが難しく、自殺が日常的に発生していました。しかし、自殺の原因が管理上の問題にあることが明るみに出れば、軍事検察官が介入して管理者が取り調べられ、逮捕、起訴が行われました。今日に至っても、先ごろ陸軍の管理方法に不満を持った小兵が抗議の自殺を行うという事件が発生しましたが、その際、陸軍司令部は直ちに過ちを認めて管理者を罰し、自浄能力の高さを示しました。

台湾なら直ちに労働状況を調査

 前述の大手企業が中国工場で人道的な管理方法を採用していたどうか、また自殺の本当の理由は何だったのか、など外部の人間にはうかがいしれない部分は残ります。しかし今回の自殺事件により、この企業の内部管理に深刻な問題点があったことは明白だと言えるでしょう。

 もし、同じような連続自殺事件が台湾で発生した場合、労働検査法の規定により、各地の労働検査所は直ちに、予告なく企業の労働状況を調査し、企業の施設または制度に労働法規違反が見つかれば、▽検察官による捜索、証拠品の差し押えを行う(第16条)▽改善・改正を求める通知を行う(第25条)▽期限内に改善が見られない場合、全面的または部分的な営業停止を命じる(第29条)──などの措置を取ることができます。

 労働検査法はさらに、各事業機関は労働者に対し、苦情などの提出先機関・係員、および提出方法を目立つ場所に掲示しなければならないと規定しています。各地の労働検査所は労働者から訴えがあれば、直ちに係員を派遣し調査を行い、14日以内に結果を申請人に通知します。

 また、労働者が労働組合に対して苦情を訴え、組合の調べにより訴えが事実であると判明し、書面で改善を要求しても雇用主が改善を拒否した場合、組合は労働検査所に対し労働検査を求めるよう規定(第33条)しています。

当事者解決では、より深刻な事態も

 このような制度は、共産主義を掲げる中国にも当然存在しているはずですし、中国では共産党の影響は企業に根付いているはずです。しかしこうした制度は、今回の連続自殺事件ではまったく機能していないようです。

 法を執行しない背景にはもちろんさまざまな要因があると思われます。しかし、当事者である企業に自浄能力が欠如していた場合、事件の解決をその企業自身に委ねれば、誤った道を選択する可能性が高く、問題を解決できないばかりか、さらに重大な問題を引き起こしかねません。

 例えば、前述の大手企業が1週間に2度の大幅な賃上げを発表したことは、企業管理の問題を低賃金問題にすり替えているとも言え、これでは今回の連続自殺事件の本当の原因は死者とともに土に埋められ、いつまでたっても問題は解決できないことになります。


徐宏昇弁護士事務所
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