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第70回  文化の多様性を尊重した判例


ニュース 法律 作成日:2010年7月28日_記事番号:T00024267

産業時事の法律講座

第70回  文化の多様性を尊重した判例

 
 「司馬庫斯」集落に住む先住民タイヤル族3人が2005年10月14日午後、新竹県尖石郷から集落に帰る途中、台風でなぎ倒されたものの、行政院農業委員会林務局に撤去されずに残されていた台湾ケヤキのうち、約3.68立方メートルの倒木5本を、地域の美化向上に役立てるために持ち帰りました。

 警察は同日夜、集落内にこの木材5本があるのを見つけ、検察へ送致しました。検察は、森林法第52条「結夥窃取森林主産物罪(集団での森林窃盗罪)」の罪で3人を起訴しました。

先住民族の文化

 3人は調査と審理の過程で、木材5本は05年9月の台風で倒されたケヤキで、林務局が撤去せずに残していったものだと一貫して主張しました。また、観光事業の発展に力を入れていた司馬庫斯集落の会議で、先住民族に伝わる伝統的な彫刻を施すため、3人にケヤキを持ち帰らせることが決められていたことも分かりました。

 一方、3人を告訴した林務局は、これらの木材が林務局の所有物だと主張しました。

 これに対し行政院原住民族委員会は、ケヤキが見つかった場所が、タイヤル族馬里光群の伝統的生活領域内だったことを確認。被告の参考人、民俗学の専門家は、司馬庫斯集落の生活は、集団で財産を共有する集団共有制のため、動植物などの自然の資源を集落に持ち帰り、集団で共有することは、集落の伝統法に合致していると指摘しました。

 それにもかかわらず、新竹地方法院(地方裁判所)は07年4月18日、3人に執行猶予2年の付いた有罪判決を言い渡しました。

 被告は判決を不服とし、台湾高等法院に控訴しましたが、第二審でも減刑されたものの、有罪判決が言い渡されました。

4年越しの勝訴

 被告はその後、最高法院へ上告しましたが、09年12月3日に破棄差し戻しとなりました。

 最高法院はその判決文の中で、「先住民族の伝統習俗には、歴史的根拠と文化的特色がある。民族間の公平性と永続的発展のため、多元主義的な観点と文化相対主義の角度から、共存と共栄に基づく民族関係を構築するため、特に先住民族がその伝統的生活領域内で伝統習俗に従う行為は、先住民族の基本的権利を保障するために、合理的な範囲内で十分に尊重されなければならない」と指摘。「先住民族が伝統的生活領域内で伝統習俗に従う行為は、先住民族でない者の観点から、先住民族でない者の行為と同一視してはならない」と明記しました。

 この最高法院の法解釈に従い、高等法院は10年2月9日、差し戻し裁判で3人の無罪を宣告しました。高等法院は判決文の中で、「3人の行為は集落の伝統に沿った行為で、森林法の立法目的に違反せず、社会・倫理的に非難されない」と指摘しました。

多様性を認める社会へ

 この案件は、最高法院が台湾社会の発展に大きく貢献した象徴的な意義があります。先住民族基本法が05年2月5日に成立してから5年、やっと台湾社会が文化の多様性を尊重する効果が出始めました。

徐宏昇弁護士事務所

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