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第74回 経費の私的流用


ニュース 法律 作成日:2010年9月29日_記事番号:T00025562

産業時事の法律講座

第74回 経費の私的流用

 
 系列企業の経費で個人宅の内装を行った著名企業、力晶半導体(現・力晶科技=パワーチップ・テクノロジー)の董事長に対し、新竹地方法院(新竹地方裁判所)は、懲役1年の実刑判決を言い渡しました。
 
 この案件は、被告が個人宅の内装を行うために、業者14社に対して建材、設計、施工などを発注し、自ら少額の内金を支払った後、系列企業2社(ともに株式会社)に残りの代金278万台湾元および134万5,000元をそれぞれ支払わせたというものです。検察はこの事実が背任罪を構成していると判断し、公訴を提起しました。

 審判中、被告は検察の示した事実を否認はしませんでしたが、以下のように主張しました。

・関連費用の支出に関して、2社の取締役会の同意を得ているため「職務に反して」おらず、背任罪を構成していない。

・関連費用は、業者が力晶に対して請求した後に、力晶が2社に対して支払うよう指示した。これは被告の手を経ておらず、被告はその事実を知り得なかった。

 しかし、裁判所の調査の結果、関連費用は被告または被告の助手によって会社に対して請求されていたことが明らかになったため、「被告はその事実を知り得なかった」という主張は採択されませんでした。

 また、取締役会の議事録には関連の記録がありましたが、取締役会の開催通知の内容と突き合わせ、会議に参加した取締役に確認した結果、供述があやふやでお互いに矛盾しているか「記憶にない」というものでした。裁判所はこれらの証拠に基づいて、「取締役会、株主総会の資料が2社の内部資料であるからといって、被告を守るために取り替え、書き換えられた可能性がないとは言えない」と認定しました。

 新竹地方裁判所の判決は以下のようなものです。

・被告が取締役会・株主総会の同意を得ずに、個人の利益を目的に会社の経費を流用した行為は、被告が株主より付与された責任に反する行為で、背任罪を構成する。

・被告の弁護人は、被告の学歴・経歴を挙げて、被告に取って代われる人材が業界内には存在しないため、被告の行為は2社の「経済全般における財産状況」を損なうものではないと抗弁したが、2社が支払った代金は本来支払う必要のないもので、財産上の損害に相当する。

・被告は、台湾の著名企業の董事長で、その地位によって企業から特別な待遇を受けていないものはないと主張したが、もしその主張が通るのならば、会社法は著名企業に適用できないことになる。

散見される個人的費用の会社負担

 この判決内容から、台湾の裁判所は企業責任者が企業に個人的な費用を支払わせることを禁止してはいないが、企業の同意を得るまでの手続きと理由が、合法性を判断するための重要な根拠となっていることが分かります。もし、説得力のある理由がなければ、たとえ取締役会の同意を得ていたとしても、刑事責任を免れることはできないでしょう。

 また、この判決から分かるように、台湾の企業責任者は、企業に個人的な費用を支払わせる習慣があり、このような行為は業界内ではよく見られるものです。読者の皆さんが台湾企業と提携する際には、この点について特に注意が必要でしょう。
  
徐宏昇弁護士事務所

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