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第73回 台湾行政裁判所の政府に対する監督


ニュース 法律 作成日:2010年9月8日_記事番号:T00025146

産業時事の法律講座

第73回 台湾行政裁判所の政府に対する監督

 
 台湾高等行政裁判所は7月30日、中部科学工業園区(以下「中科)の第3期、第4期開発案に停止の裁定を下し、各界を震撼(しんかん)させました。同裁定によると、中科が第3期開発案を即時停止しなければならない理由は、以下のとおりです。

1)当開発案に関して行政院環境保護署(以下「環保署」)が認可した「環境影響評価(以下「環評」)」は、2008年に台北高等行政裁判所に無効判断を下され、最高行政裁判所への上告も却下されて判断が確定している。

2)環保署は10年、環評のやり直しのため、中科管理局に対して追加資料の提出を求めている。しかし中科は、08年の環評無効判断において「健康風険評価(健康に対する影響リスク評価)」の未提出が重要な理由であったにもかかわらず、10年7月までの間、提出を果たせなかった。このことから、中科3期開発案が、環境に重大な悪影響を与えることが分かる。

3)中科3期は07年に着工され、環評無効判断が下された後も引き続き開発が進められている。このため、即時停止を命じる必要があると判断する。


即時停止の必要性強調

 台北高等行政裁判所はまた、中科第4期開発を即時停止すべき理由については、以下のように言及しています。「第4期開発案に対する環評は『条件付き』で認可されたものの、その『条件』は第3期よりもさらに厳しくなっており、第4期環評の瑕疵(かし)は第3期よりも大きいことがうかがえる。第3期環評の無効が確定している以上、第4期環評も今後行政法院により取り消される可能性が非常に高いと推論でき、開発の即時停止を命じる必要性がある」。

 「条件付き」の意味は、環評が認可を受けても、付帯条件が満たされていなければ、環評が無効になるということです。

 また、高等行政裁判所での審理中、環保署の証人は以下のような証言を行っています。「当時の環境評価委員が評決を行った際、委員の多数は条件付きで認可できるとの立場だった。一方、より詳細な調査と評価を行う、第二段階評価の実施を主張していた委員らは、メーカーの操業開始以前に健康風険評価を行って、その結果『長期的に不利な影響』があると判断された場合は認可を取り消すことを主張した」。

 この証言から、評価委員会の中には学者や専門家もいたものの、環保署が「必ず認可させる」ために圧力をかけたことが分かります。委員たちは「開発至上」という圧力の下、条件付きでの認可に同意しましたが、せめてもの「罪滅ぼし」の意味を込め、厳しい条件を出しました。すなわち、それらの条件が将来達成されないときには、改めて別の委員により審査、認定が行われるという運びとしました。

「却下裁判所」の悪名

 台湾の行政裁判所は、行政機関に加担し、市民の要求を却下し続けてきたため、「駁回法院(却下裁判所)」と評されてきました。その行政裁判所が、重大な経済建設である科学園区の開発案、しかも二期分の開発案の停止を行政機関に求めたことからも、本案件の環評にどれほど厳重な瑕疵があったのかが分かります。同裁定を見れば、これらの開発案が環境に与える(与えた)危害が、計画中の環境保護措置ではどうにもならないことが分かると思います。

 残念なことに、台湾の為政者が裁判所の判決から学習することはありません。台湾社会の環境保護に対する要求は、経済発展に対する要求と同等なものとなっています。また、政府自ら「司法改革」を叫んでいるにもかかわらず、為政者は政府が行政裁判所の判決を守らなければならないことを知りません。そればかりか、行政裁判所が台湾の経済発展を妨害しているとの暗示すら公然と行っています。

 最高行政法院は9月2日、環保署が第3期開発案をめぐる台北高等行政裁判所の仮処分に対して行った抗告を棄却し、同時に、台北高等行政裁判所が第4期開発に対して行った仮処分を取り消しました。高等行政裁判所が第4期案を判断する際に、第四期案と第3期案の内容を混同してしまったことがその理由です。 

 第4期開発案の環境影響評価の内容からすれば、将来、裁判官が政治的圧力に屈せず、法に基づ
いた判決を行えば、第4期開発案は即時停止を求められるでしょう。しかし、環保署は8月31日に第3期開発案の環評をまたしても「条件付き」で認可し、裁判所の裁定に挑戦状を叩きつけました。

政府の姿勢は30年前のまま

 筆者がまだ台湾大学で行政法を学んでいたころ、当時の教授が「行政法の原理・原則、さらには法律の規定はすべて理論である。行政機関が法律を守らず、裁判所の判断にも従わないのであれば、すべての行政法規は政府に対して拘束力を持つことはない」と語っていました。30年後の今日、台湾は民主国家にはなりましたが、政府の法律に対する認知の程度は、本案を見る限り、あのころのままのようです。

徐宏昇弁護士事務所

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