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作成日:2010年11月10日_記事番号:T00026437
産業時事の法律講座
第77回 デルの価格誤表示問題
パソコン大手、デルは2009年6月25日と7月5日の2回、デルオンラインストア(www.dell.com.tw)上に優待価格の液晶モニターとノートパソコンを掲載しました。市場価格と比べてかなり安価だったため、多くの消費者がオーダーしました。ところがデルはこの価格が表示ミスだったとして、商品の引き渡しを拒み、消費者に代わりに割引クーポンを支給しました。この対応に不満を感じた消費者は台北、台南の地方法院(地方裁判所)に訴訟を起こしました。
裁判所は大部分の案件について、デルを支持しましたが、5月31日には台南
地方法院で消費者31人が勝訴、11月1日には台北地方法院の第2審判決でも消費者が勝訴し、デルに出荷を命じました。
売買契約は成立したのか
デルは下記の2つの理由から、売買契約は不成立だと主張しました。
契約不成立:
当該ホームページ上に「デルは出荷を保留または出荷しない権利がある。すべてのオーダーはデルが『受け入れた』時点で発効する」と記載している
契約は取り消せる:
ネット上で誤表示された価格は、市場価格との差が大きく、消費者も誤りと認識しているはず
一部の裁判所ではこの主張が受け入れられましたが、法的には認め難いものです。
台南地方法院は、デルの「権利の保留」について、▽デルはホームページ上に取引に関する条件をすべて明記している。それ以外に協議する必要はないので「保留」は特に意味をなさない▽民法の精神にのっとり、双方が契約の重要なポイントに同意すれば、契約は成立する▽デルは消費者のオーダーを受け、支払い方法を自動メールで通知しているので、「保留」しているとは考えられない──と判断しました。
またデルの「価格誤表示」は、▽価格誤表示そのものが、民法上の「錯誤」とは定義が異なる▽価格誤表示は発生し得ることだが、デルほどの大企業がなぜ2回も続けて同じ「ミス」を犯したのか?──と指摘。異常に低い価格の提示で、消費者をオンラインストアに誘導し、オーダー後に価格ミスを装ってクーポンを贈呈することで業績につなげようとしたのではないか?との疑問を暗に示しました。
また、台南地方法院は消費者31人による集団訴訟だったため、デルがネット上に掲載している条件は「定型契約」を構成するもので、不明な点はデルに不利な解釈となると示しました。
一方、台北地方法院は、デルと消費者の権益のバランスに着目し、もし契約が成立しなければ、不公平な結果を生むと判断、デルに契約の履行を求めました。
多大な広告効果
企業の立場から見れば、デルは今回の事件から多くの利益を得たと言えるでしょう。2回続けての表示価格ミスにより、2日間で10万人からのオーダーを受けました。これによって、ホームページ閲覧率が向上しただけでなく、メディアに無料の広告を流してもらったようなものだからです。
デルはその後も契約の成立を認めず、消費者に訴訟による解決を求めました。デルは数十万〜数百万台湾元の訴訟費用を支払う可能性がありましたが、実際には消費者の多くがこの段階で諦めました。それに、一部でデルに不利な判決が出たものの、最終的に購入しようとした商品を手に入れたのは10万人のうち32人(台南31人、台北1人)にすぎませんでした。
徐宏昇弁護士事務所
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