ニュース 法律 作成日:2011年1月26日_記事番号:T00027962
産業時事の法律講座台北地方法院は昨年12月30日、IC設計最大手の聯発科技(メディアテック)が、元社員を機密漏えいで訴えた裁判で、被告の元社員に対し、3件の機密漏えいについて有罪と判断し、拘留25日、懲役9月の一審判決を下しました。この判決に原告のメディアテックは大きな不満を抱いています。
メディアテックは裁判で以下の主張を行っていました。▽被告はメディアテックのマーケティング副部長であったため、メディアテックに対して秘密保持の義務を負う▽被告はデジタルテレビのコントロールチップに関する機密資料を社内から持ち出し、自宅のパソコンに保存した▽2007年3月の離職前にはそれらの機密情報を自身のヤフーメールのアカウントに保存し、バックアップを取った▽被告は離職後、メディアテックの競争同業者である晨星半導体(Mスター・セミコンダクター)に転職し、同年5月に前記機密資料をMスターより与えられたコンピューターに保存した▽同年6月にメディアテックの液晶テレビ用チップ開発計画の内容をMスターに漏えいした▽同年9月にはメディアテックのチップ回路図と価格に関する情報をMスターに漏えいした──。
判決によると、被告は2件の機密漏えいに関して、それぞれ6月と5月の有罪判決を受け、合計で9月の懲役刑が執行されることとなりました。また、メディアテックの在職期間中に、製品の発売開始日を漏えいしたことに対し、別途拘留50日の有罪判決を受けましたが、減刑の結果25日に短縮されました。これらについては特に大きな問題はないでしょう。あるとしても刑罰の重さが適当かどうかという点だけです。
機密持ち帰り・保存は問われず
むしろ注目すべきは、裁判所が判決において、被告が、▽メディアテック在職中に会社の機密資料を自宅に持ち帰ったこと▽資料を自宅のコンピューター内に保存したこと▽離職前に資料を自身のヤフーメールアカウントに保存しバックアップを取ったこと▽Mスター就職後に資料をMスターより与えられたPCに保存したこと──については、違法とはならないとの判断を下したことです。
これについて台北地方法院は判決書の中で、台湾における「電磁的記録の保護」には、刑法第359条に「同意なしに他者の電磁的記録を取得し、他者に対して損害を与える」行為に対して処罰規定があるが、被告が在職期間中に取得した会社の機密資料は被告の同僚より送られており、また被告の職務と関連があることから、被告が当該資料を取得することに会社側の同意があったと見なし、被告が機密資料を「同意なしに取得」してはいないと判断しました。
また、被告が機密資料を取得した後、自宅PCとヤフーメールのアカウントにバックアップを取った行為は、メディアテックの社内規則に違反してはいますが、被告にはメディアテックの利益に損害を与える意図もなく、また被告がメディアテックの機密資料を窃取したことを証明する証拠もなく、さらに被告には情報を漏えいする動機または目的がないため、被告の行為は犯罪の構成条件を満たさないとされました。
その上で、被告が機密資料をMスターのPCに保存したとき、被告は既にメディアテックの社員ではなかったため、メディアテックのために事務処理を行う義務はなく、背任の罪に問われることもないとしました。
判決は、仮にメディアテックが前述のバックアップにより何らかの損害を受けたのであれば、「営業秘密法」を根拠として民事訴訟を提起するべきであるとしています。なお、営業秘密法には刑事處罰は設けられていません。
控訴審では争点化も
今回の判決から、刑法第359条の規定を解釈すると以下のようになります。
1)盗んだ電磁的記録だが、権利者に対して損害を与えていない:犯罪不成立
2)同意を得て取得した記録をその後返却しない:犯罪不成立
3)同意を得ているかどうかにかかわらず、他者の電磁的記録を取得後に漏えい、または利用する:漏えい行為、または利用行為が違法かどうかで犯罪が成立するかを判断
電磁的記録を取得した後、保存の目的でコピーをするのは一般的なことです。しかし、本事件判決では、電磁的記録を合法的に取得した後、取得要因が消滅した後に行われるコピー行為について犯罪が成り立つのか、他者の電磁的記録を盗む際に行うコピー行為が犯罪とされるのか、などについては説明がなされていません。これらの問題は、本事件が今後控訴審で争われた際に争点となるかもしれません。
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