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第78回 龍潭事件判決に関する一考


ニュース 法律 作成日:2010年11月24日_記事番号:T00026733

産業時事の法律講座

第78回 龍潭事件判決に関する一考

 
 11月11日、最高裁判所は台湾中を騒がせた陳水扁前総統の貪汙治罪条例違反(汚職事件)について、桃園県龍潭郷の工業用地不正売買をめぐる収賄などを有罪と認め、陳前総統に懲役11年、罰金1億5,000万台湾元の支払いを命じました。また、共犯の呉淑珍夫人にも懲役8年、罰金500万元の判決が下されました。

龍潭土地不正売買事件とは
 
 龍潭郷の土地用地不正売買事件は、和信集団傘下の達裕開発が、龍潭工業区への投資過剰から財政危機に陥り、土地の売却により打開しようとしたことから始まります。その後、工場用地を探していた広達集団傘下の広輝公司との間で交渉が持たれましたが、価格の点で折り合いがつきませんでした。

 そこで達裕公司は、まず政府に龍潭工業区の土地を購入させ、新竹科学工業園区(竹科)へ編入した上で、広輝公司に対して貸し出しまたは売却するという計画を立てました。この計画を実行するため、達裕公司は呉夫人に協力を求め、もし広輝公司が工場を設置する期限までに土地を売却することができれば、呉夫人に4億元の報酬を支払うことを約束しました。

 呉夫人は科学園区管理局局長であった李界木氏に協力を求めたものの、当時まだ科学園区内には建設用地が多く残っており、また科学園区設置基金の財政も逼迫(ひっぱく)していたため、一企業の工場設置のために政府予算を割いて土地を購入することに対して、科学園区、国家科学委員会(国科会)、経済部工業局などの関係機関はもとより、行政院内からも反対の声が上がりました。

総統自ら計画実行を決定
 
 李局長は各関係機関の反対意見に対抗しきれず、呉夫人に事態の打開策を相談しました。そこで呉夫人は2003年12月末、李氏を官邸に招き、陳前総統に現状を説明させました。陳前総統はその場で「行政院との理解を深めてみよう」と発言、04年1月初めには行政院院長、副院長、国科会主任委員を召集し、李局長を交えた会議を開催。行政院院長および副院長は反対の意向を示しましたが、総統は「やらなければならないことはやるのだ。選挙や外界の反応に立ち止まってはならない」と述べ、龍潭工業区の購入を裁決しました。

 このようにして李局長は総統の裁決を後ろ盾として計画を推し進め、国科会内の科学園区審議委員会も1月19日の会議において、広輝公司の科学園区への進出および龍潭工業区での工場設置に同意しました。その後、2月9日にはすべての行政手続き、値段交渉、契約手続きが完了、3月16日からは土地代金の支払いが始まりました。そして達裕公司は4月13日、呉夫人との約束であった4億元を支払い、そのうち3億元を呉夫人、3,000万元を李局長、残りを仲介者が受け取ったのです。

決定は行政権力による介入か?
 
 裁判所が認定した事実経過と、各被告の説明した事実経過の概要は以上です。この事件の最大の争点は、(1)陳前総統は4億元の報酬の存在を知っていたのか?(2)行政権力により土地購入政策に介入したのか?という点にありました。 台湾高等裁判所は、陳前総統は報酬の存在を知っていたと判断し、その理由を以下のように述べています。

 「被告は国家元首であるため、政府官僚が夜間に官邸内に出入りし、その職務事項について討論をすることはあり得る。しかしながら、その夫人が龍潭工業区の土地を科学園区に編入することに関心を持ち、科学園区の責任者から意見を聞き、総統に接見させるという行為は、国家元首の官邸内における常識的な状況ではない。しかし被告は、それに対して驚きも、また不適当であるとも感じなかったばかりか、夫人に対してそれを問うこともしていない」

 「すなわち被告は李局長が何のために官邸を訪れたのかを知っていた。官邸で極秘に会うことのみにより、問題点と進度を理解し、どのように介入するべきかを決定し得たのである」

 これに対し、陳前総統の弁護士は「本案と総統の職権は無関係」と主張していましたが、最高裁判所は「職務上の行為とは、職務範囲内において『行わなければならない』または『行うべき』行為を指している。すなわち、当該行為と職務との間に関連性があり、当該職務の影響力が事実上及ぶものであれば、それは職務上の行為である」とし、総統が行政官僚を招集し政策上の指示をしたことは職務上の行為であると認定しました。

確定しにくい汚職事件の直接証拠
 
 官僚はよく「やらなければならないことをやれ」「そうしなければならないことはそうしろ」というような言い方で裁決を下します。しかしその裁決の真意は、その裁決を受けた側が判断するものです。それゆえ、検察は多くの汚職案件について行政関与の直接証拠を提出することができないのです。本案の裁判官は政策決定に対する影響を直接認定しましたが、過去の判決から見れば、このような判断は非常に珍しいものです。今後、類似の案件において裁判所が同様の認定をするとの楽観的な考えは持たないほうがいいでしょう。

 台湾の行政システム内には多くの「審議委員会」「評価委員会」が設けられています。このような制度は「より多くの意見を集める」ことで、少数の意見が政策を左右することを避けるためのものなのですが、本案や、蘇花公路建設案などからも、これらの委員会にどの程度の監督効果があるのかは、読者の皆さんの目にも明らかでしょう。
 
徐宏昇弁護士事務所

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