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第76回 契約による「知的財産権」


ニュース 法律 作成日:2010年10月27日_記事番号:T00026147

産業時事の法律講座

第76回 契約による「知的財産権」

 
 皆さんもご存じの通り、知的財産権には、主に特許権、商標権、著作権などが含まれるほか、営業秘密、植物育成者権、マスクワーク権などの権利も含まれます。これらの権利の主な目的は、他者による特定の技術、商標、秘密の使用を排除することです。多くの国で立法による保障、すなわち法律により規定されることで、侵害してはならない権利として扱われています。 

 しかし、産業界における「知的財産権」は、前述の権利だけではありません。例えば特定の経営モデルはノウハウとして扱われ、他者にライセンスを供与することで、権利金を受け取ることができるとされています。この種の知的財産権は「法律」によって直接保障されるのではなく、「契約」によって保障を受けています。台湾の最高裁判所の最近の判決でも、このような契約上の知的財産が認められています。

 ある大阪の企業(以下「日本側」)は、その責任者が米国のイラストレーター、ローズ・オニール氏が1909年に発表したイラスト、キューピーを自らの創意と技術によりカラーイラストにし、日本語版の漫画として出版した後、キャラクターを各種文具、幼児用品などにプリントし販売していました。

 この製品に興味を持った台湾、高雄の企業(以下「台湾側」)は、日本側と提携、日本側がその責任者のキューピーのイラストおよび製品のライセンス経営の手法を台湾側に伝授することでライセンス契約を締結しました。キューピーの著作権は保護期間が過ぎていたため、双方の約定により、日本側責任者が台湾で商標を申請した後に、台湾側に商標権をライセンスすることとなりました。

台湾側が一方的に権利金支払い停止
 
 契約締結から2年後、台湾側は日本側とこれ以上提携を続ける必要はないと判断し、権利金の支払いと販売経過報告の提供を停止しました。日本側はこれを不服とし裁判所に提訴、権利金の支払いを求めました。

 知的財産裁判所は、本契約はローズ・オニール氏の創作したキューピーについてのライセンス契約であるものの、キューピーが既に著作権保護を受けていないため、日本側責任者の作成したキューピーのイラストを「二次的著作物(他者の著作を基に十分な創意を加え創作した著作物)」として扱うことはできないとし、日本側の訴えを退けました。また、前述の契約には商標権などの権利も含まれていましたが、裁判所は、商標は日本側の責任者個人の名義であり、日本側にはその「権利」を台湾側にライセンスすることが不可能であるため、「実現不可能」な無効契約を基に権利金を請求することはできないとの判断を下しました。

最高裁が判決破棄
 
 その後、日本側は最高裁判所に上告し、最高裁判所は知的財産裁判所の判決を破棄、日本側に権利金の請求を認めました。

 最高裁判所は、▽前述の契約の中には、日本側が、日本側責任者の作成したキューピーのイラストのデジタルファイルを台湾側に提供することが示されている▽日本側はそれを台湾側に提供し、台湾側はそれを製品上に大量に利用している▽たとえキューピーのイラストに著作権がないとしても、日本側は契約上の義務の履行を終えている──、と判断しました。また、商標ライセンスに関する約定については、▽確かに商標は第三者の名義のものであるが、それにより契約そのものが「実現不可能」であるとは言えない▽商標権利者が商標を台湾側にライセンスすれば、日本側の契約義務は履行されたことになる▽従って日本側は契約に基づいて権利金を請求することができる──と判断しました。

 最高裁判所はさらに、台湾側は契約終了後もキューピーのイラストと商標を使用し続けたため、「不当利得」の規定により、権利金に相当する賠償を行わなければならない、とも判断も下しました。

必要時は知財権「創作」も
 
 この案件からも分かるように、裁判所が認める「知的財産権」の範囲は、立法院が定めた法律が規定されている権利とは限りません。皆さんも、必要な際には契約により知的財産権を「創作」し、契約当事者間において効力を発揮させ、法律による保証を受けることができます。ともかく、今回の最高裁判所の判決が、「知的財産とは特許権、商標権、著作権のことである」と勘違いしている知的財産裁判所の目を覚まさせたことは間違いないでしょう。
 
徐宏昇弁護士事務所

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