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第71回 特許権の不当行使


ニュース 法律 作成日:2010年8月11日_記事番号:T00024563

産業時事の法律講座

第71回 特許権の不当行使

 
 2009年1月9日付の大紀元新聞によると、EMS(電子機器受託生産サービス)世界最大手の鴻海精密工業(以下「鴻海」)の特許申請・認可取得数は6年連続で台湾首位だったそうです。

 その鴻海が先日、特許侵害の仮処分に関する裁判の二審判決で、「特許権の不当行使」によって特許を侵害した相手側への損害賠償を命じられました。

仮処分が取り消しに

 事の起こりは06年末。鴻海があるコネクター製造メーカーのエクスプレスカード(ノートパソコンの拡張カード)用コネクターが、同社の発明特許1件および実用新案特許2件を侵害しているとして、士林地方法院(裁判所)に対して同製品の製造・販売を禁止する仮処分を申請、認められたことにさかのぼります。

 被告の製造メーカーはこれに対し、仮処分の取り消しを求めて抗告を提起。そして高等法院は、鴻海が裁判所の判決が確定する前に製造・販売を禁止することが必要である理由について十分な説明と証拠の提示を行っていなかった点を指摘、仮処分は取り消されました。その後、鴻海は最高法院に上告しましたが却下され、敗訴が確定しました。

鴻海に316万元の賠償命令

 07年初め、鴻海は再び同じ製造メーカーを相手取り、特許侵害を理由に前述のコネクターの製造・販売差し止めを求める裁判を起こしました。しかし、製造メーカーは経済部智慧財産局に対して鴻海の特許の取り消しを求める特許無効審判の申し入れと、仮処分執行により発生した損害賠償を求めて鴻海を提訴しました。

 メーカーは損害発生の理由として、▽鴻海の仮処分の申し入れがそもそも不当であったにもかかわらず仮処分が執行されたこと▽台湾証券交易所のホームページで仮執行に関する情報が公開されたこと▽同社の顧客に対して、既に当該製品の販売ができなくなったと鴻海が通知したこと──などを挙げました。

 損害賠償をめぐる裁判で、一審は原告の訴えを退けましたが、6月17日付の二審では一転、原告の勝訴となりました。

 二審で智慧財産法院は、鴻海が仮処分を申請した当時、▽仮に原告の製品が鴻海の特許を侵害していたとしても、原告の製造・販売能力では、訴訟期間を2年として試算した場合2,000万台湾元程度の損害にしかならなかった▽その規模の損害額は、資産総額が数千億元の鴻海からすれば取るに足らない▽鴻海は原告が「問題のある」製品を生産していることを知っていながら、半年後にようやく仮処分を申請した▽仮処分の認定を受けた後、1カ月もの間執行しなかった──などを理由に、鴻海に対して緊急での保護の必要はなかったことは明らかと判断。仮処分の申請は不当であったとし、鴻海に対して控訴審での弁護士費用も含む総額316万3,337元の支払いを命じました。

特許権は有効性が重要

 この鴻海の案件から、特許申請は確かに件数も重要ですが、その有効性こそが最も重要であることが分かります。

 特許権所有者は、他者に対して権利を主張する際には、まずその特許が本当に特許要件を満たしているのかどうか、また特許権の行使が法律に準じているかどうかを確認することが大切です。今回の案件のように、特許権を不当行使することは、特許侵害訴訟で勝訴を勝ち取る以前に、裁判所から損害賠償の支払いを命じられることになりかねません。

徐宏昇弁護士事務所

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