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第88回 刑事訴訟の「略式手続」


ニュース 法律 作成日:2011年4月13日_記事番号:T00029320

産業時事の法律講座

第88回 刑事訴訟の「略式手続」

 「簡易程序(略式手続)」とは、裁判所が厳格に証拠を調査せずに事実を認定し、その事実に基づいて判決を下すことです。

 刑事訴訟制度では、証拠によって事実の認定を行わなければなりません。たとえ被告が罪を認めたとしても、証拠によって合法的に証明できなければ、裁判所は有罪判決を下すことができません。

 従来は軽犯罪の場合、裁判所は略式手続によって被告が認めた罪名で判決を下すことができました。その後、1997年の刑事訴訟法改正でこの略式手続を適用できる範囲が拡大されました。これにより、被告が犯罪を認め、かつ裁判所が執行猶予、易科罰金(自由刑を財産刑に代替)、勾留、罰金が相当と判断したすべてのケースに対して略式手続が適用できるようになりました。

 ただ、たとえ被告が罪を認めていても、被害者に対する保障が十分でないなどの理由で、執行猶予、易科罰金では「公平さを欠く」と判断された場合は、通常の刑事訴訟のプロセスで裁判が行われます。

大規模な違法コピー案件も略式に

 略式手続となったケースに、ゲームソフトの違法コピーを販売していた台北市汀州路の「大頭兵商行」が09年11月17日、保護智慧財産権警察に摘発された案件があります。押収されたのは、任天堂のゲーム機、「Wii(ウィー)」用が4,009枚、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション2(PS2)」用が2万2,032枚、米マイクロソフト(MS)の「Xbox」用が382枚に上り、当時としては最大規模でした。

 検察官による調査の後、この案件は通常の刑事訴訟プロセスで起訴され、台北地方法院(台北地方裁判所)も通常通り案件を処理しました。しかし準備法廷で担当裁判官はこの案件を略式手続で扱う略式案件へと変更しました。

 刑事訴訟法の規定によると、略式案件は通常の審判プロセスを経ずに、たった1人の裁判官が審理します。この略式案件の担当となった裁判官は法廷で、略式とすべき案件ではないとの考えを示しましたが、法に従い判決を下しました。この案件で押収された違法コピーの数は膨大でしたが、裁判所は「被告が既にマイクロソフトと和解した」ことを理由に、被告2人に対して懲役10月、8月を言い渡し、執行猶予が付きました。

 この判決を不服とした任天堂とソニーは、▽押収された違法コピーが膨大▽被告と和解したのはマイクロソフトのみ▽執行猶予は不当──を理由に控訴しました。

 刑事訴訟法の規定に従い、略式案件が控訴されれば、台北地方法院で審理されます。もし台北地方法院が、執行猶予付きでは被害者の任天堂、ソニーに対して「公平さを欠く」と判断すれば原判決を破棄し、通常の刑事訴訟プロセスで第一審判決を下すべきです。これこそが法律が想定する略式手続のあり方です。

 ところが台北地方法院は合議体による審理を行い、検察官による控訴を棄却したのです。その理由は、第一審で下された刑罰の程度を尊重しなければならないというものでした。(台北地方法院2011年3月29日判決)

果たして上告できるのか

 従来、略式手続は軽犯罪のみに適用されていたため、第二審の判決に対して上告できませんでした。ですが97年の法改正で適用範囲がすべての犯罪に広げられた際、第二審の判決を最高法院に上告できるのかについて、特に規定されませんでした。そのため現在の台湾では、「略式手続の第二審判決を不服とした場合、最高法院に上告できるか」という法律上の問題が存在しています。

 こうした状況では、第一審の裁判官に執行猶予案件と考えられ略式案件とされ、略式法廷の裁判官によって執行猶予付きの判決が言い渡されると、たとえ被害者が不服として控訴しても、同じ裁判所の「同僚」で構成される合議体に「原審を尊重する」というもっともらしい理由で控訴を棄却され、被害者が検察官に対し最高法院まで上告を求めることもできません。

見直しが必要な時期に

 この案件からも分かるように、たとえ国際的な大企業の知的財産権侵害案件でも、裁判所は被害者の損害を無視した方法で解決を図る可能性があります。台湾の刑事訴訟で略式手続は乱用されていると言え、見直しが必要となっています。

 

徐宏昇弁護士事務所

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