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第93回 新専利法の「強制授権」


ニュース 法律 作成日:2011年7月13日_記事番号:T00031202

産業時事の法律講座

第93回 新専利法の「強制授権」

 昨年末に行政院より立法院に送られた専利法(特許法)改正案は、4月6日に第一次審査を終了しました。与野党間で条文に対する大きな意見の食い違いがないため、このまま順調に法改正が行われる予定です。

 今回の専利法改正案の内容の中で、特許権利者への影響が最も大きく、注目されているのは、いわゆる「強制授権(強制実施許諾・compulsory license)」制度の大改正でしょう。強制授権とは、政府が私人の経済関係に介入することで、第三者に特許技術の利用を許可する制度です。本来、特許権者には「第三者の特許技術利用を禁止する」、「特許技術の利用者に報酬を請求する」という2つの権利がありますが、強制授権が実施されると、「報酬を受け取る権利」だけが残ります。

 改正専利法中の強制授権制度には、以下のような規定が設けられています:

1)国家により発動される強制授権:国家の緊急事態、またはその他の緊急の状況に対応するため、経済部知的財産局が総統の緊急命令、または政府機関の通知に基づいて必要な特許権に対して強制授権を実施することができる。

2)利害関係者の申請による強制授権:申請者が過去に合理的な商業条件を提示したにもかかわらず、相当期間内に特許権利者の同意を得られず、かつ、下記の条件に符合する場合、強制授権を申請することができる:

A.公益を増進するための非営利目的の使用の場合

B.後から申請された特許が先に申請されている特許を利用しなければ実行できず、かつ後から申請された特許技術が経済上、相当程度の意義を持つ重要な技術改良である場合。

C.品種権者が他者のバイオ技術特許を実行しなければその品種を利用できず、かつ当該品種が経済上、相当程度の意義を持つ重要な技術改良である場合。

3)不公正な競争を解消するため:特許権者に関して、競争の制限または不正競争を行ったとの理由で裁判所による判決または公正取引委員会による処分が下された場合、他者は強制授権を申請できる。

4)外国での重大疾病の治療に協力するため:製薬能力がない、または不足している国家に協力するため、エイズ、肺結核、コレラなどの伝染病治療に必要な薬品の強制授権を申請し、薬品を当該国家に提供することができる。

 1)については、知的財産局が許可を出した後、特許権者に対して「できる限り早く通知」を行えばよく、第二種以降については特許権利者に通知後、その答弁を待ち、双方の主張を基に認定が行われます。

 強制実施は本来、国内市場の需要に対しての供給を主としていますが、3)4)についてはその限りではなく、4)に関しては薬品を当該国家に提供して、かつ特許権利者とは異なる表示をしなければなりません。また、2)のB、Cについては、特許権利者は強制授権の許可が下された後にクロスライセンスを要求することができます。

本質は司法行為

 以上より、「強制授権」は特許権利者にとって重大な権利侵害であり、またその審査要件はどれも高度な政策決定であることが分かります。つまり、強制授権の審査の本質は司法行為であり、裁判所による裁判過程を経るべきものなのです。特許の審査を主務業務としている知的財産局に審査を行う能力はありません。

 台湾の法制度下では、強制授権の申請結果がどうであれ、不利益を被る側の当事者は行政救済を提起することができるため、案件の最終的に知的財産裁判所と最高行政裁判所の審理を経て確定します。知的財産権の保護という立場に立つ裁判所は、「緊急事態」、「緊急な状況」、「公益の増進」、「重要な技術改良」、「不公正な競争」、「製薬能力不足」などの不明確な法律概念に対して厳格な認定を行ってきました。強制授権は「他に代わりの方法がない場合」と判断されたケースに限り、認められる可能性があります。

 今回の強制授権の改正は、知的財産局が世界貿易機関(WTO)の知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)の規定を根拠に作成し、与野党にも反対意見はないのですが、法律施行後、裁判所の支持を受けられるかどうかについては難しい問題があるでしょう。


徐宏昇弁護士事務所

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