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第90回 地震予言騒ぎ


ニュース 法律 作成日:2011年5月25日_記事番号:T00030202

産業時事の法律講座

第90回 地震予言騒ぎ

 5月11日に巨大地震が発生するとして、台湾中を騒がせた「王老師」の予言は外れましたが、警察当局は社会秩序維護法違反と判断し「散布謠言(デマの流布)」という罪名で王氏を送検しました。なぜこのような刑事罰が存在するのか、不思議に思われた方も多いことでしょう。

 社会秩序維持法とは、軽微な犯罪行為に対する処罰として警察が人民の財産権をはく奪する権利を認めた法律です。違警罰法という権威主義統治時代の色濃い法律から、1991年に改正が行われました。

 警察は違警罰法が廃止される前、人民を理由なしに24時間拘留することが可能でした。しかし80年代末に司法院大法官会議が突然、「違警罰法は47年の中華民国憲法施行以前に制定されたものだ。警察が人民の行動の自由をはく奪できるという規定は、『人民の行動の自由をはく奪できるのは裁判所の法律にのっとった審判による場合のみ』とした中華民国憲法の規定に反しており、違憲である」状態が30年も続いてきたことを「発見」しました。その後、人民の抗議を経て91年にようやく社会秩序維持法が成立したのです。

犯罪扱いが容易

 社会秩序維持法の違警罰法との大きな違いは、警察に対して過料(罰金)、申誡(口頭注意)、没収(財産の没収)の権利を与えた一方、拘留、留置、勒令歇業(営業停止命令)、勒令停業(営業禁止命令)などは簡易裁判所の判決によるとした点です。

 しかしこの法律では、犯罪の構成要件があいまいで、ある行為を「犯罪」と解釈することが非常に容易です。その上、罰が下された後に救済する方法には限りがあるため、統治者が人民の自由と財産をはく奪する道具となり得ます。例えば、社会秩序維持法違反の名目で留置・取り調べを行うとしながら、他の案件の捜査を行うというように、警察の捜査に利用される可能性が高いです。そのため制定当時は批判が絶えませんでした。

「デマを流布」の判断基準は?

 今回の王氏の事件を例に挙げれば、王氏が送検された罪名、「散布謠言」を規定している社会秩序維持法第63条第1項第5号には、「デマを流布し、公共の安寧に影響を与える恐れがある場合は、3日以下の拘留か3万台湾元以下の過料と処す」とあります。しかし、「デマ」や「公共の安寧」、「公共の安寧に影響」とは一体どういったことを指すのでしょうか?どのような話をどのように広げればそう判断されるのか、基準は不明です。

 このほか同法74条には、深夜に徘徊(はいかい)し、行動が疑わしく、職務質問しても正当な理由を説明できない場合、6,000元の過料という規定もあります。

廃止を検討すべき時期に

 社会秩序維持法は、台湾社会の民主化に伴い、施行から20年経った今日では、警察が適用する回数も減りました。この法律に違反して処罰されたという話もほとんど聞きません。耳にするのは、警察が売春、賭博、特殊営業に関する捜査の際にこの法律を利用することぐらいです。そのため、今回の王氏の案件は非常に珍しいケースと言えます。

 本件は、台湾メディアが毎日報じているゴシップ記事の一つでしかありません。ですがこの事件を通じて、台湾にはまだこうした人権に反する法律が存在していることが分かります。警察がこの法律をまじめに執行することはないのかもしれませんが、廃止を真剣に検討するべきときが来ているのではないでしょうか。

徐宏昇弁護士事務所

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