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第91回 可塑剤事件から見た台湾政府の法執行


ニュース 法律 作成日:2011年6月8日_記事番号:T00030481

産業時事の法律講座

第91回 可塑剤事件から見た台湾政府の法執行

 台湾で毎日繰り返し報道されているゴシップ記事を真に受ける人もいないと思いますが、今回の可塑剤事件は、ゴシップ記事にまひした台湾人にも、その重要性を感じさせる大事件です。

 この事件は、食品メーカーが、スポーツドリンクなどの見た目や食感を向上させるために使用する「起雲剤」(乳化剤)の中に、食品添加物への使用が禁止されている可塑剤が含まれていることが、政府の調査で明らかになったことが発端となりました。その後、「第四類毒性化学物質」指定の可塑剤が使用されているケースがあることや、多くの食品や健康食品が、ペットボトルやカプセルへの含有量規定を越える可塑剤に汚染されていることも明らかになりました。

 しかし今回、政府による可塑剤使用の発見は、衛生署の下部機関が食品にアンフェタミンなどの興奮剤が含まれているかどうかの通常検査を行う際に、偶然発見したものです。つまり、食品添加物の中に可塑剤が含まれているかどうかの検査は、日ごろ行われていなかったということです。また当初は、可塑剤を含んだ「起雲剤」の製造業者は1社と断定され、そこから供給を受けた業者の製品だけが販売停止にされていましたが、その後の調査で1社だけではなかったことが明らかになりました。

 検察官は、案件受理後、直ちに製造業者2社の責任者および家族を拘留しました。うち1社の弁護士は「重罪ではないため拘留は違法である」ことを理由に釈放を求めましたが、検察官に説得され取り下げました。

 行政責任を問われた行政院長は直ちに、厳しい態度でこの問題に対処すること、および法令に問題があれば改正することを表明しました。また、立法委員も、行政院長の表明に歩調を合わせる形で、現在、第四類の毒性化学物質に指定されている可塑剤を、第一類または第二類に指定する、罰金額と有期刑の刑期を大幅に引き上げるという法改正案を提出しました。

パターン化した問題発覚と対応

 以上の流れは、台湾における社会事件の対応として、以下のようなパターンに沿ったものとなっています。

1.大部分の社会問題は当局の通常の法執行により発見されるのではなく、災害・問題が発生した後に発見される。

 今回のように政府が問題を「自主的に発見」できることはまれである。

2.事件発覚後、検察官は報道を基に事件を処理し、裁判所も報道の度合いにより拘留の是非を判断する。

 今回の事件で言えば、食品衛生管理法および毒性化学物質管理法の規定によると、本案の刑事責任は3年以下の有期刑であり、また刑事責任を問うに当たり、「人体・健康に対して与えた危害」を証明しなければならないため拘留を行う要件は満たしていないことになるが、裁判所および検察官は「民意」を配慮し、とりあえず逮捕・拘留を行った。

3.政府が法令の不備を理由に法改正

 食品衛生管理法および毒性化学物質管理法のどちらの規定によっても、政府には食品添加物中に可塑剤が混入されていることに対する検査と、処罰を行う義務があり、法律上も行政罰、刑事罰の根拠を用意している。しかし政府は法令の不備を理由に、立法委員に法改正を求めることで、政府が法執行を怠っていた事実を隠そうとしている。

 政府とメディアは聞きなれない化学物質の名称を用いて一般市民を困惑させていますが、今回の事件の本質は「食品添加物の中に不法な化学物質が含まれていた」ということです。このような問題はいつでも発生し得ます。そのため食品衛生管理法は政府に対し、検査、処罰、市民への公表、操業停止などの権力を与えているのです。政府が長期間気付かなかった原因は、検査官に食品業界に対する理解と想像力が欠如していたためと思われ、政府の管理能力は十分疑うに値すると考えられます。

有害食品に対する法体制は整っている

 食品衛生管理法および毒性化学物質管理法には、今回のような違法事件に対し、巨額の罰金を科す規定はありません。人体に危害を加えたことが証明されて初めて3年以下の刑事責任に問われます。

 同法律は、政府が定期検査中に違法添加物を発見、対応できると予想しています。もし業者が従わなければ連続して処罰でき、最高の場合、工場閉鎖も命じることができます。もし人体の健康を害する結果が発生した場合、業者は刑事責任を負わなければなりません。人を死傷させた場合、刑法の殺人罪、傷害罪などで処罰されます。

 第四類の毒性化学物質とは、環境を汚染したり人体・健康を害する「恐れのある」物質を指しており、健康を害することが立証されている第一〜第三類の物質とは異なります。そのため法が規定する管理方式も全く違うものとなります。

 実際、台湾メディアによる騒動の拡大、インターネットの普及により、不法を働いたという事実が発覚した場合、メーカーが生き残ることは難しいでしょう。

 可塑剤の人体に対する実際の影響が依然明らかとなっていない中、この事件では多くの人が健康に被害を受けたとは言えないでしょう。この事件のためだけに刑期の延長や罰金額の引き上げを行うことは、政府の無能さを上塗りする以外の何ものでもありません。

 以上、可塑剤問題が長期間発覚しなかったのは台湾政府の管理能力の低さを証明するものであり、台湾における有害食品に関する法律システムは既に整っているのです。さらに今回の事件の発覚から対応に至るまでの過程は、過去の公害事件と同じパターンをなぞっています。このような政府に管理を頼らなければならない人民は、幸運を祈る以外に手立てがないと言えましょう。 

徐宏昇弁護士事務所

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