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第89回 注意すべき非訟事件の養育費規定


ニュース 法律 作成日:2011年5月11日_記事番号:T00029908

産業時事の法律講座

第89回 注意すべき非訟事件の養育費規定

 離婚の際、夫婦間で最も大きな争議となるのは、未成年の子供が父母のどちらと同居するかという養育の問題でしょう。この問題は、夫婦間の話し合いで解決がつかない場合、最終的には裁判所の「斟酌」(しんしゃく)の上で「裁定」(酌定)されます。裁判所はソーシャルワーカーの訪問レポートを基に、子供が父母どちらと同居するかを決定するほか、教育や、同居をしていない父母とのつき合い方などについても、原則的な判断を下します。また、同居をしていない父母に対して、養育費を負担するよう命じることもあります。

 離婚のほか、例えば、婚姻関係になく、意見が合わないなど共同生活が困難なことを理由に同居をしていない男女が生んだ子供の場合でも、離婚と同様の問題が生じます。その他、過去に協議を行った、または裁判所の判断を受けたものの、当事者本人の原因、または客観的環境の変化から、子供の養育方法を変更する必要があるなどの場合も、裁判所は「非訟事件法」に基づいて、子供に対する男女双方の権利義務を判断します。

 通常、裁判官は裁定を行う前に、当事者双方に協議を行わせた上で、ソーシャルワーカーと子供の意見を参考にして、協議の内容が子供の利益に沿っているかを判断します。しかし、多くの場合、協議が成立することは難しいため、裁判官による裁定となります。

一期でも滞れば一括払いに

 養育費は通常、月決めの分割払いとなります。しかし、子供と同居していない側からの養育費の支払いは遅れることも少なくありませんが、非訟事件法はこのような状況に対して「分割払いの支払いが一期でも滞った場合、それ以降の支払日すべてが満期となったものと見なす」との特別規定を設けています。つまり、残額すべてを一括で支払わなければならなくなるわけです。

 例えば、5歳の子供がいた場合、養育費の支払いが一期でも遅れれば、残り15年分の養育費全額を請求することができるのです。この場合、裁判所の裁定書と養育費の支払いが遅れたことの証明を提出するだけで、裁判所は強制執行のプロセスを開始し、財産の差し押さえや競売を行うことができます。

 この規程の目的は、養育費を毎月受領していくことの難しさを解決するためですが、たった一期の支払いが遅れただけで、全額を支払わなければならないという規定は厳し過ぎるでしょう。特に、経済力のない人にとっては、裁判所による強制執行の金額がいくらであっても問題にはなりません。なぜならば、そもそも財産がないからです。

 逆に、経済力のある人に対する強制執行の場合は、本当に養育費全額の支払いを受けることができるかもしれません。裁判所が裁定する養育費の金額は、現在のところ1人毎月1万6,000台湾元ですから、15年では288万元、子供が2人いれば576万元となります。執行された側にとってはそれだけの財産を一度に失うこととなるわけです。しかし、それだけの金額を手に入れた側にしても、適切な金銭利用の監督制度がなければ、同居している親がそれらの金銭を使い切ってしまうなどの問題が発生し、結果として子供にとって災難となるでしょう。

裁量権の介入なし

 残念なことに、台湾の裁判所が強制執行を行う際には、裁量権というものの介入はありません。つまり、強制執行のプロセスが始まってしまうと、全額の執行を実現するか、財産がないために執行不可能となるまで執行が停止されることはありません。

 つまるところ、台湾の裁判所の強制執行は、一般の債権債務関係においての規定の通りに行われるだけなのです。そうした規定を何ら調整もせずに父母・子女の関係に用いれば、大きな問題が生じ、結果として経済的に最も弱い立場にある未成年の子供にとって不利となります。

子供の利益考慮を

 一般の債権債務関係においては、誰が誰に負債を負っているのかは明確に示されますが、前述のような人事関係において、本当の債権者は、実は子供なのです。しかし法律は、子供の利益を考慮して裁定を調整する権利を裁判所に与えてはいません。

 このため、もし結婚生活がうまくいかず、裁判所の裁定の結果、子供と同居できず、かつ養育費を支払わなければならなくなった場合、この制度が改正されるまでは「支払いが一期でも滞った場合…」の結果を甘く見てはなりません。争いに躍起となり、感情的になってしまうと、自らの財産だけでなく、自分の子供の利益も傷つけてしまうことになります。

徐宏昇弁護士事務所

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