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第92回 公然侮辱


ニュース 法律 作成日:2011年6月22日_記事番号:T00030770

産業時事の法律講座

第92回 公然侮辱

  新聞報道によると、ある女性が台北で仕事上の問題でもめていた相手と協議を行っていた際、女性の夫である日本人男性が協議の相手を日本語で「ばか」とののしり、相手方が「公然侮辱」の罪でこの日本人男性を告訴するという事件が発生しました。第一審は無罪判決が下ったものの、第二審の裁判官はその場に居合わせた第三者の証言を根拠に、被告が「ばか」と発言したことを認め、その表現は「告訴人の社会的評価を損なうに足る」と判断して3,000台湾元の罰金刑の有罪判決を下し、案件が確定しました。

 台湾の刑法における「侮辱罪」は、「公然」を構成要件としますが、「公然」とは「不特定多数の人が見聞きできる」という状況を指します。判決によると、被告が「ばか」発言を行った際、3人は商業施設の管理室内で協議を行っており、証人となった同施設の管理人は協議に参加していたのではなく、たまたま居合わせて発言を耳にしただけでした。

本当に「公然」だったのか

 刑法は原則として故意の犯罪を処罰するものです。このケースにおける故意とは、「罵声が他の人に聞こえることを知りながら罵った」ということを意味します。つまり「うかつにも聞こえてしまった」だけなのであれば、それは故意とは見なされません。

 また、告訴人は、被告が「ばかやろう」と罵ったと告訴しましたが、証人が聴き、裁判所が認定したのはあくまでも「ばか」でした。この2つの語句が同じものであるかどうかは、討論に価する法律問題です。なぜならば、もし2つの語句が異なるのであれば、裁判所は検察官が起訴していない「ばか」に対して判決を下すことはできないからです。

 実は裁判所は審判中、法庭通訳者である劉氏から「ばかやろう」には中国語でいう「王八蛋」のような悪い意味しかないが、「ばか」は一概に悪い意味のみとは言えず、親しい間柄で使用することもあるという証言を得ていました。

 この劉氏の分析は、筆者の理解と同様のものであり、多くの日本人の意見とも同じものでしょう。しかし、裁判所がこの通訳者の意見を証拠として採用することはできません。なぜなら外国語の解釈は、一種の「鑑定」であり、「鑑定」できるのは該当言語を研究する専門家のみで、この通訳者の意見を採用するには彼の鑑定者としての資格が問われるためです。

 しかし、判決の中で裁判所は劉氏の意見には言及せず、「ばかやろう」も「ばか」も同様の罵り言葉であり、また「ばか」は「ばかやろう」の省略形であるため、被告が「ばか」と言った行為は、検察官が起訴した「ばかやろう」と言った行為に包括されると判断し、有罪判決を下しました。

文化の違いが生んだ判決?

 このように、この判決には多くの議論すべき法的問題が含まれていますが、最大のポイントは、「文化の違いにより、裁判所が外国人の行為に対して下す評価と、外国人自身の評価が異なる可能性がある」という点にあります。つまり、同日本人被告とって、相手にそれほど重大に取られると思っていなかった「ばか」という言葉が、台湾の裁判所では「認められない」と判断された可能性があるということです。

 また裁判所は民族的感情から、日本人が台湾で、日本語で台湾人を罵ることを快く思っていないため、このような厳しい判決を下したのかもしれません。

 この事件は2009年8月に発生した後、約2年にも及ぶ審理を経て被告夫妻がわずか計2万8,000元の罰金刑を受けるという結果となりました。この間、通訳や補助制度によって任命された弁護士に血税が投入されました。もっと簡単な解決方法があったのではないでしょうか?

徐宏昇弁護士事務所

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