ワイズコンサルティング・グループ

HOME サービス紹介 コラム 会社概要 採用情報 お問い合わせ

コンサルティング リサーチ セミナー 在台日本人にPR 経済ニュース 労務顧問会員

第97回 民法における住所の認定


ニュース 法律 作成日:2011年9月7日_記事番号:T00032385

産業時事の法律講座

第97回 民法における住所の認定

 「住所」はあらゆる民事関係の基礎であると同時に、重要な概念でもあります。

 民事法は人と人との権利義務関係を規範していますが、その当事者間の実際の関係は「普遍的」なものではなく、その所在地、コミュニティーの法律によるものです。従って、当事者の属するコミュニティーがどこにあるかによって、どこの国、どこの地方の法律を適用するのかが決まり、事実上の法律関係をも左右することになります。「住所」はとても重要です。

「長く住む」意思が必要

 台湾の民法によると、「長く住む」意思をもって一定の地域に「住めば」そこがその人の住所となります。つまり、住所の認定には、住んでいるという事実のほかに、そこに「長く住む」意思が必要です。

 筆者が最近担当した案件に、原告である医師が、南アフリカ共和国に移民した実兄とその妻(以下「被告ら」)を相手取って起こした民事訴訟がありました。被告である妻は南アフリカの国会議員でしたが、当事者はすべて台湾国籍を所持していたほか、被告らは2003年4月に台湾の戸籍を台北県永和市(当時)に移していました。原告は被告らが原告より借り入れた借金の未払い部分の支払いを求め、06年7月に板橋地方裁判所に「支払い命令」を申請しました。裁判所は当時の戸籍を根拠としてそれを許可、被告らに対して支払いを命じました。

 しかしその後、支払い命令は被告らの戸籍住所に送達されたものの、被告らがそれを受領しなかったため、規定により警察署に転送され、被告らの戸籍地に公告が貼られました。3カ月後、支払い命令が発効しましたが、被告らが異議を提起しなかったため、その効力は確定し、確定判決と同様の効力が発生しました。

最高裁に上告

 09年、原告は裁判所に「強制執行」を申請し、裁判所も許可を出しました。しかし、被告らは裁判所に対し支払い命令の有効性の「再審」を求めました。板橋地裁は、兄の借入は認めましたが、その妻に関してはこれを認めませんでした。これに対し原告・被告双方が控訴した結果、台湾高等裁判所は、被告らは既に南アフリカに移民しているため、住所は永和ではなく南アフリカにあり、支払い命令は違法、無効となると判断しました。原告はこれを不服とし、最高裁判所に上告しました。

 11年8月18日最高裁は、「住所」の認定は戸籍登録を条件としないが、当事者が登録された戸籍に長い間居住していない事実と、他の地域を住所とする意思を持っていることが客観的な証拠により認められない場合、当事者の住所は登録されている戸籍地と推定されるとの判断の判決を下しました。

 本案の被告らは03年から06年までの3年間、海外に居住していましたが、台湾での居住期間も毎年半年を超えていたので、もし被告らが戸籍地を台湾での居住の地とし、また台湾の住所を「廃止」する意思がないのであれば、戸籍地が住所となります。そこで最高裁は本案を高裁に差し戻しました。

行為と意思の双方を判断

 この判決からもお分かりのように、台湾の法律による住所の認定には、当事者の行為と意思の双方が判断されます。ある人がそこに長く住む意思を持って(または後からその意思が生まれ)同じ場所に長く住み着けば、そこが住所となるわけです。この住所は、それを「廃止」する意思、例えばどこか他の地に長く住む意思を持って引っ越すような場合を除き、変更されません。

 本案の被告らに関して言えば、例え南アフリカに移民し、そこで国会議員になったとしても、裁判所は前述の理由に基づいて被告らの住所は永和にあると判断したのです。

 この最高裁の解釈は、海外に移住した台湾人のみならず、台湾に長期滞在している外国人にも適用されます。台湾人と結婚し、子供を産み、事業を展開しているが永久居留は申請していない、また台湾での生活がメインとなり、たまに本国に帰国するだけの外国人の方の住所は、台湾の民法によれば台湾にあると判断されます。

徐宏昇弁護士事務所

TEL:02-2393-5620 
FAX:02-2321-3280
MAIL:hubert@hiteklaw.tw

産業時事の法律講座