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第98回 「日台民間投資取り決め」が残した課題


ニュース 法律 作成日:2011年9月28日_記事番号:T00032793

産業時事の法律講座

第98回 「日台民間投資取り決め」が残した課題

 台湾と日本は9月22日、投資の自由化・促進・保障を図る投資協定「日台民間投資取り決め」に署名しました。これは台湾にとって外交上の大きな前進と言えます。
この投資協定の主な内容としては、「内国民待遇」「最恵国待遇」「投資保障」などが挙げられます。しかし法律に明文化こそされていないものの、これに相当する待遇は既に提供されており、日台間の文化、生活、貿易、経済上の交流の基礎となっています。

 署名当日の黄重球・経済部次長の発言、「この協定の内容は日台の現状を何ら変更するものではなく、産業への影響は特に見て取れない」(中央社報道)がこの協定の性格を言い尽くしています。

 台湾の法律とその適用上、原則として日本も他の諸外国諸と同様の扱いを受けます。台湾は大部分の国家と外交関係がなく、多くの場合において国際条約の締結国でもありませんが、日本人(およびその他先進国民)に対する待遇は、台湾人に対するそれと実質的に変わりないものとなっています。

 このような状況は日本においても同様でしょう。しかし日本の法律は、台湾を国家として認めておらず、あくまで中国の一省として扱っています。今回の協定締結により、多くの法律の適用がこの協定、または協定に応じて改正された法律を根拠に、台湾企業が「正式」にその他外国人、外国企業と同様の待遇を受けることが可能となるかもしれません。これは台湾側にとって法律上意義ある効果と言えるでしょう。

本当に必要なのは民法規定の改正

 しかし、日本の企業への台湾に対する投資保障で欠けているのは今回の協定のようなものではなく、民法総則施行法第12条第1項の規定「認許を受けた外国法人は法令の制限内において我が国における同種の法人と同様の権利能力を持つ」の改正にあることは明らかです。

 この規定によれば、外国法人は会社法などの台湾の法律に基づいて、台湾政府に自らが外国会社であることの「認許」(承認)を申請しなければ、完全な「法人」とは認められないことになります。経済部が1997年9月1日に公布した解釈令は、法務部が同年8月9日に行った解釈を引用し、「民法総則施行法第12条第1項、会社法第375条および学説により、認許を得ていない外国法人は我が国内において権利能力を有さず、権利主体となり得ない。また実務上、非法人団体に対して形式上の当事者能力を認めるとしても、実体としての権利能力を認めることはできない」としています。

 つまり、認許を受けていない日本企業は台湾においては「法人」ではないため、「非法人団体」の身分による権利・義務しか享受・負担できないこととなります。

 権利能力のない団体が法律上享受できない主な権利としては、不動産の所有権、抵当権、権利質権(例:株式質権)などの「物権」があります。

 なお、台湾の法律が唯一認めている外国企業の「権利能力」は、「促進民間参与公共建設法」第32条に規定されている、「外国の金融機構が民間機構に対して連帯で貸付を行う場合、その組織形態が会社の形式をとっている場合は、その融資関連の権利義務および権利能力は民法総則施行法第12条および会社法375条の制限を受けず、中華民国会社と同様である」──というもののみです。

 「日台民間投資取り決め」は、上記問題点の改善に踏み込むことはなく、民法総則第12条第1項の「法令の制限内」という部分の解釈を緩めるだけの効果にとどまりました。しかし、この問題こそ、今後解消に努めなければならない課題であることは明らかです。 

徐宏昇弁護士事務所

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