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第103回 知財局の課題


ニュース 法律 作成日:2011年12月7日_記事番号:T00034193

産業時事の法律講座

第103回 知財局の課題

 11月29日、立法院で専利法(日本の「特許法」に相当)改正案が成立しました。総統の公布を待って、行政院により施行されます。専利法改正は2003年以来8年ぶりで、この間、智慧財産法院(知的財産裁判所、以下「知財裁」)の設立など、専利法にかかわる環境に大きな変革があったため、改正の必要性は確かにありました。しかし、今回の改正内容は主に以下のようなものでした:

1)「新式様専利(日本の「意匠権」に相当)」の名称を「設計専利」に変更。「専利説明書」のフォーマットを調整。改正部分の半数はこの2点によるもの

2)「3倍賠償」の規定の削除。特許権利者の賠償請求にさらなる制限の設定

3)「強制授権」関連規定の改正

4)動・植物特許は開放されず

 上記の「強制授権」については、今年7月に『第93回新専利法の「強制授権」』で紹介したとおりです。損害賠償については、次回詳しく紹介したいと思います。

改正は「文字遊び」?

 さて、今回の法改正では条文のほとんどを変更していますが、その半数は法律用語の変更を行っただけです。「新式様専利」を「設計専利」とするかどうか、「申請専利範囲(日本の「特許請求の範囲」に相当)」を専利説明書(日本の「明細書」に相当)の一節とするのか、または独立した文書とすべきなのか、などといったことは特許の申請と権利侵害の認定には何ら影響を及ぼしませんし、過去に何の問題も起きていません。むしろ、長年使用されてきた法律用語を改正してしまうことで、利用者に混乱と不便を招き、経済部智慧財産局(以下、知財局)の予算を浪費する結果を招くだけです。

 このような何の意味もない用語の改正は「トイレットペーパーは水洗トイレに流す」「結婚可能年齢の引き上げ」など、最近物議を醸している法改正と同様のものに見えます。政府各機関は毎年「研究発展」予算を計上しながら、有効な法改正案を作成できないため、法改正に似せた「文字遊び」をしているのではないか?と疑いたくもなります。

 知財局の主務業務は特許の審査です。実用新案の型式検査も合わせると、毎年4万件を超える特許を認可しています。しかし一方、2008年から10年までの2年半に知財裁第一審に提起された167件の特許侵害訴訟中、実に74件で特許が無効と判断されました。また、第二審での無効判断は101件中42件に上ります。さらに「侵害を構成しない」と判断された案件においても無効な特許が含まれており、裁判所が指摘しないだけなのです。

審査能力強化に重点を

 さて、専利法の規定では、特許が認可された後、第三者は知財局に対して「告発」を行うことで、無効審判を請求できます。この無効審判を審査するのは知財局のベテラン審査官です。しかし、仮に「告発」を受けた案件が知財裁で「特許侵害訴訟」などの対象となった場合、知財局は審査を行わず、知財裁の判決を待った上で判断を下します。

 知財局がこうした方法を採用している理由は、「告発の結果に異議があるならば知財裁で訴訟を提起すればよい。訴訟の結果こそが最終結果だ」といったものでしょう。しかしこうした考えは、知財局が自らの審査結果に自信がないことの表れにほかなりません。何もかも知財裁任せの姿勢と、知財裁によって取り消される特許の数は正比例しています。

 知財局は特許の主管官庁として、特許審査の専門能力の強化に毎年の「研究発展」予算の重点を置くべきでしょう。目下必要なのは、審査官に正確な法律概念を植え付けることにあります。技術的な観点だけでなく、審査基準を深く理解した上でいかに正確な審査を行うか、そうして出された結論であれば裁判所も支持することでしょう。

 また、知財局も弁護士を使って、知財裁での訴訟戦を積極的に行うべきです。専門的で独立した立場の弁護士が見つけた審査の過りをしっかり認めることは、知財局の特許審査の信用力を高めることにつながります。

徐宏昇弁護士事務所

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