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第104回 改正専利法 懲罰的損害賠償制度の削除


ニュース 法律 作成日:2011年12月28日_記事番号:T00034611

産業時事の法律講座

第104回 改正専利法 懲罰的損害賠償制度の削除

 前回ご紹介した改正専利法(日本の「特許法」に相当)は21日、総統より公布されました。ただ、施行日はまだ発表されていません。

 今回の改正専利法では現行(改正前)専利法第85条第3項の「懲罰的損害賠償制度」が削除されました。この制度は、特許侵害者の侵害行為が故意である場合、特許権利者は損害額の3倍以内の金額を損害賠償として請求できるというものです。米国の制度をまねたもので、特許権利者が証明した損害額以上の損害賠償を請求できるという特徴があります。

 米国ではこの制度によって、裁判所が認める損害賠償額が天文学的数字になってしまうという結果を招いています。一方、台湾では裁判所が賠償額を認定する際の「調整幅」の役割を果たしています。

 台湾の訴訟制度では、被告に各種財務報告書や証拠を提出する義務がないため、被告が侵害行為によって利益を得たことを原告が証明することが困難です。また、台湾の裁判所が損害の認定に対して厳格な態度をとっていることもこうした状況を生んだ原因の一つでしょう。

損害認定、まず「証拠」

 最高裁判所は各種民事訴訟に限らず、知的財産案件に関しても「証拠」のない損害は通常、損害と認めない方針をとっています。たとえ下級裁判所が比較的高額の損害賠償を認めても、案件が最高裁判所まで上がってきた段階で、より厳格に損害賠償を認定するよう案件を下級裁判所に差し戻してしまいます。

 極端な例では、被告の製品が権利を侵害していると証明したにもかかわらず、その製品を販売している事実を証明できなかったため、特許権利者が雇った「徵信社(日本の信用調査会社に相当)」が被告から購入した製品の数量・金額を基に損害賠償を算出し、最終的に1,000台湾元にも満たない損害賠償しか認められなかったという判決(2011年8月知的財産裁判所)もあります。

権利者有利の規定が削除

 現行の専利法には懲罰的損害賠償制度が設けられているため、被告の侵害行為に悪意が認められた場合、裁判所は損害額を通常1.5倍から2倍程度に拡大して認定することによって、専利権利者の損失を補おうとします。しかし、もし改正専利法が施行されると、このような「調整」ができなくなり、特許権利者を保護する上で不利となります。

 このほか、改正専利法では損害賠償額の算出時に「侵害者が製品のコスト、必要経費を挙証(証明)できない場合、製品を販売することによって得られたすべての金額を『利益』とみなす」という規定も削除されました。これにより、特許権利者の賠償請求はさらに難しいものとなってしまいました。

 つまり、改正専利法は損害賠償の計算方法において「特許権利者の保護」という目的に反したものとなっています。

新たな自衛手段

 損害の証明は困難かつ時間がかかるため、知的財産裁判所の裁判官は最近、特許権利者が「合理的な権利金」を主張するよう薦める傾向にあります。「合理的な権利金」とは特許権利者が通常得ることができる特許権利金のことで、その金額自体に客観的な基準があるわけではありません。しかし、裁判所が判決を下す際の「調整」の幅は確保できます。この概念は台湾ではまだ新しいものですが、今回の改正専利法に明文化された規定が盛り込まれています。

 このように、もとより証明が難しかった損害賠償額は、今回の法改正でさらに困難なものとなり、特許権利者の地位もまた不利なものとなります。今後は、より多くの特許権利者が「合理的権利金」の請求を選択することとなるでしょう。特許権利者は将来起こるかもしれない特許訴訟の際の負担を軽減するため、自らの特許技術の「権利金」の合理的な水準を考えておく必要があるでしょう。

徐宏昇弁護士事務所

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