ニュース その他分野 作成日:2011年6月14日_記事番号:T00030590
台湾経済 潮流を読む台湾では既に来年1月の総統選をにらんだ舌戦が激しさを増している。そのうちのひとつが、ECFA(両岸経済協力枠組み協定)の効果をめぐる舌戦である。
ECFAが発効したのは2010年9月、ECFAの中核を占めるアーリーハーベスト品目(以下「EH品目」と略)の関税引き下げが始まったのは11年元日である。まだECFAの効果に対して評価を下すのは早過ぎるような気がする。しかし、台湾の政治は早速ECFAの評価をめぐる論戦を活発化させている。なぜなら、ECFAは、対中経済交流拡大を通じた台湾経済の活性化という馬英九政権の公約の屋台骨となる政策であり、その評価が現政権の評価に直結するからである。
論戦の及ぶ範囲は多岐にわたっている。ECFA締結によって台湾内の投資が活発化したか、ECFAによって外国からの対台湾直接投資・証券投資が促されたか、ECFAの締結によって台湾と他の国のFTA締結は可能になるのか、などである。また、ECFAによって台湾の対中輸出競争力が増したのかをめぐっても議論が戦わされている。いずれも、もう少し長い時間の経過、統計の蓄積、投資行動に関する詳しい調査などがなければ、しっかりとした判定はできないが、本稿では現時点で得られるデータから、ECFAが台湾の対中輸出に与えた影響について簡単な分析をしてみたい。
ECFAは役立たず?
第一に考えられる影響としては、関税支払いの節約である。台湾経済部国際貿易局が発表した統計によると、ECFAによる優遇関税の適用を受けるために、11年元日から3月28日までに合計6,469件、11億4,306万米ドル分の特定原産地証明書を台湾企業が取得している。11年1~3月期に台湾が中国に輸出したEH品目(557品目)の金額は49億2,353万米ドルであったことから、金額ベースで見たECFAの優遇関税利用率は23.2%となる。
その結果として、どの程度の関税支払いが節約できたかは、詳細な証明書発給データがなければ正確な計算はできないが、概算をすると3,806万米ドルとなる※。これは11年1~3月期の台湾によるEH品目の対中輸出額の0.8%にとどまっている。現段階では、それほど大きな関税節減効果が得られていない恐れがある。
※ 11年1~3月期にすべてのECFAアーリーハーベスト対象商品の対中輸出に対して優遇税率が適用された場合の金額を算出し(1億6,392万米ドル)、それに上記の利用率(23.2%)を掛けたもの。実際には、品目によりECFAの利用状況が異なる可能性があるが、ここではそれを無視している。
第二に、優遇関税率の適用によってどの程度台湾の対中輸出競争力が強化されたかが問題となる。中国によるEH品目輸入総額に占める台湾からの輸入額のシェアは、10年通年で12.1%であった。それに対して、ECFAによる関税引き下げ後はどうかというと、11年1~3月期の数値で12.1%と不変であった(図表)。
むろん、台湾の対中輸出競争力に影響を与えるのは、関税率だけではない。それ以外にも、為替レート、中国や他国とのインフレ率の差、品質、デザインなど多様な要素が輸出競争力に影響を与える。それゆえ、この結果をもって「ECFAは役立たずだ」と論じるのは公平さを欠く。しかも、大小についての議論はあろうが、少なくとも上述の関税支払い節減効果はある。また個別品目でみると、一部の工作機械や化学品などでは、中国の輸入総額に占める台湾製品のシェアが大幅に拡大している。
ただし、上記の分析が示すとおり、台湾製品全体として見た場合、これまでのところECFAで台湾の対中輸出競争力が著しく強化されたわけではないこともまた確かだ。ECFAの有効性を高める上で、中国との交渉を通じて優遇関税率の適用品目をさらに増やすのも一つの方策ではある。
利用率引き上げに地道な努力
しかし、台湾側も中国に対して一定の開放を余儀なくされることは必至であり、それが馬政権批判につながる可能性もある。それだけに、総統選が近づくなか、馬政権は中国とECFAの第二次開放リストをめぐり積極的に交渉しづらい状況にある。こうした制約がある中、馬政権は、ECFAの特定原産地証明書の取得方法の周知徹底や、取得しやすさを増すための中国側との協議などを進めることで、ECFAの利用率を引き上げ、地道にECFAに対する支持を訴えていくことになりそうだ。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟
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