ニュース その他分野 作成日:2011年7月12日_記事番号:T00031173
台湾経済 潮流を読む2011年7月1日、EU(欧州連合)と韓国のFTA(自由貿易協定)が発効した(以下、欧韓FTAと略)。その結果、9,252品目の韓国製品(全品目の94%)に対するEUの関税率が即日ゼロとなり、5年以内にはほぼすべての韓国製品(全品目の99.6%)がゼロ関税を適用されることになった。それが台湾の対EU輸出に不利になることは論を待たない。
影響は146億ドル
2010年の台湾の対EU輸出総額は314億米ドルだった。このうち164億米ドルは、台湾を含むWTO(世界貿易機関)メンバーに対してEUが既にゼロ関税を適用している製品の輸出であり(図表)、EU・韓国FTAの影響は受けない(具体的には半導体などIT関連財中心)。しかし、韓国にも対EU輸出実績があり、かつ、欧韓FTAの発効により関税面で劣勢に立たされる台湾製品の対EU輸出額も146億米ドルと、無視し得ないほど大きい。
中でも競争上不利になる可能性が高いと台湾経済部がみているのが、(1)EUの関税率が高く、(2)EU市場における台湾製品のシェアが韓国製品と比べてそれほど大きくなく、かつ、(3)差別化が容易ではない製品である。そうした製品には化学品が多い。具体的には、プラスチック製品ではABS共重合体、プラスチックの箱、有機化学品ではカルボン酸(他の酸素官能基を有するものに限る)・同酸無水物、テレフタル酸およびその塩など、その他では合成繊維の長繊維糸の織物などである(他の製品も含めた詳細な分析は卓士昭「韓歐盟FTA對我產業影響評估及因應措施」2011年6月15日を参照されたい)。
米韓FTAの発効も、残すは双方の国会の批准のみとなっている。輸出構造の似通った韓国が、台湾の第2位の輸出先である米国とのFTAを発効させれば、台湾はさらに大きな影響を受けることになるだろう(むろん日本も台湾と同様の立場にある)。
馬英九政権は、中国との関係改善をてことして、ECFA(経済協力枠組み協定)締結を実現し、昨年12月15日にはシンガポールとの経済連携協定の締結交渉を今年から開始すると宣言した。その他、EU、米国、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジア諸国に対しても、FTA締結に向けた呼びかけを強化する構えだ。しかし、中国政府が今後台湾と他国とのFTA締結に対して干渉しないとも限らない。馬政権も楽観視はしていないようだ。
馬政権が打ち出す3つの対策
では、そうした中、馬政権はどのような方策で難局を乗り切ろうとしているのか。
第一に、韓国製品との差別化支援である。具体的には、「市場運用型発展補助計画」という商品化を目的とした研究開発補助金の積極活用を呼びかけている。また、台湾製品のイメージ向上やプロモーション活動を通じた差別化も強化することになっている。ただし、いずれも、効果が出るまでに時間がかかることが予想される。
第二に、EUとFTAを締結している国に台湾から原材料・部品を輸出し、当該国で加工・組立を行った後、EUに輸出するという方法を馬政権は提案している。台湾から完成品をいきなりEUに輸出するよりも、関税の支払いを抑えられる可能性があるためだ。ただし、EUがFTAを締結している国・地域のうち、台湾企業が密接な関係を持っている国・地域は現時点ではあまりない※1。また、こうしたモデルが活用可能だとしても、一部とはいえ生産機能の海外移転は免れ得ないし、輸送コストも増す。いわば苦肉の策である。
価格競争力の改善という意味で即効性がありそうなのが、輸出製品の生産に用いる輸入原料・部品に対する関税払い戻し制度の拡充である。現在、3,034品目がその適用対象とされているが、台湾経済部は、欧韓FTAで悪影響を受けやすい製品の価格競争力強化のために、同制度の拡充を財政部に申し入れる方針である。今後、その具体化をめぐって台湾の関係当局内で議論が展開される見込みである。在台湾日系企業も同制度の拡充策に関して提言・申し入れをするなどの対応をしてはどうだろうか。
※1 発効済みの相手国・地域は、アンドラ、アルジェリア、アルバニア、ボスニア-ヘルツェゴビナ、カメルーン、アフリカ・カリブ・太平洋諸国・地域(ACP)(うちCARIFORUM等28カ国と妥結)、チリ、コートジボアール、クロアチア、エジプト、フェロー諸島、マケドニア、EEA(アイスランド、ノルウェー、リヒテンシュタイン)、イスラエル、ヨルダン、レバノン、メキシコ、モロッコ、OCT諸国・地域、パレスチナ、南アフリカ、スイス、シリア、チュニジア、トルコ、サンマリノ、モンテネグロ、セルビア(関税同盟も含む)。交渉妥結済みは、コロンビア・ペルー、中米(エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、パナマ、ホンジュラス、署名済みは韓国。
みずほ総合研究所 アジア調査部主任研究員 伊藤信悟
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