ニュース その他分野 作成日:2011年12月13日_記事番号:T00034304
台湾経済 潮流を読む行政院主計処が11月24日、経済予測値を発表した。11年の実質GDP成長率の予測値は4.5%、12年は4.2%だった。11年、12年の予測値いずれも10月時点の予測値よりも下方修正されているが、依然として4%台の成長率を維持するとされている。
しかし、欧州債務問題が広がりをみせる中、台湾経済が12年も4%台の成長率を維持することは決して容易ではない。
輸出環境が台湾当局の想定よりも悪くなる可能性が高いからだ。ユーロ圏は11年10~12月期から来年初頭にかけて景気後退を余儀なくされる可能性が高い。米国では、ブラックフライデー商戦が好調だったことが好感されているが、所得の伸びは低調で、貯蓄率を下げて消費をしている状態だ。家計はサブプライムローン問題で痛んだバランスシートの修復を終えておらず、貯蓄を減らして消費を増やせる状況にはない。米国の消費好調は長続きしないだろう。
欧米経済の失速は、台湾経済に響きやすい。そもそも台湾はGDPの53%を輸出に依存している上(産業連関表ベース、07年)、傾向として欧米経済が1ポイント減速すると、台湾の実質GDP成長率は2ポイントも減速する(IMF試算)。
これほど輸出が景気に与える衝撃が大きいのは、台湾の民間設備投資が液晶パネルや半導体、石油化学、鉄鋼など、投資サイクルの長い資本集約型の輸出産業によって担われているからだ。これまで投資のけん引役だった液晶パネル、DRAM産業は、太陽電池、発光ダイオード(LED)産業と並び、「4大惨業」と揶揄(やゆ)される状況にある。民間設備投資の力強い回復は望みにくい。また、台北市で住宅販売価格が下落し始めるなど、民間建設投資を取り巻く環境も厳しくなりはじめている。
個人消費はこれまで比較的好調だったが、減速の兆しがみえる。それを象徴するのが、雇用環境の悪化だ。就業者数の構成をみてみると、11年9月以降、週当たりの労働時間数が40時間以上49時間未満の就業者のシェアが大幅に減り、30時間以上40時間のシェアが急拡大している(図表)。無給休暇の広がりによるものだろう。また、株価の下落などで、消費マインドも悪化している。これらを勘案すると、個人消費も減速する可能性が高いだろう。
台湾経済回復、12年央頃か
台湾経済が回復に向かうのは、欧米経済が快方に向かう12年央頃だとみずほ総合研究所はみている。ただし、欧米ともに、家計のバランスシート調整にまだ時間を要する上、政府債務問題を抱えており、財政による景気刺激策もとりにくい。それゆえ、欧米の景気回復の足取りはゆっくりとしたものにとどまらざるを得ない。台湾経済の回復ペースもそれに引きずられるだろう。しかも、11月24日に発表された主計処の経済予測では、公共投資の伸び率は11年の▲5.3%から12年には▲7.6%へとマイナス幅が広がっている。以上から、みずほ総合研究所では、11年の台湾の実質GDP成長率を4.2%、12年を2.2%と予測した。
ただし、馬英九政権も欧州債務問題の広がりを受け、12月1日に景気対策(「経済景気因応方案」)を打ち出し、12年も4%台の成長率を維持すると明言した。かくして4%の成長率は「予測値」から「目標値」に変わった。
しかし、全面的かつ大規模な景気対策ではなく、「局所的に発生した病に対する薬の処方」(劉憶如・行政院経済建設委員会主任委員)にまずはとどめるそうである。中身を見ても、既存の政策の執行を加速させるというものが多い。今後は、毎週1回は景気対策を検討する会議を開き、必要に応じて追加的な対策を講じていくというのが馬政権の対応のようだ(『経済日報』11年12月1日)。
景気対策の成否は、当面の経済はもとより、1月14日に控えた総統選、立法委員選への影響を通じて、今後4年間の台湾の行方を左右するかもしれない。馬政権の危機管理能力、民進党の経済政策の構想力が試されている。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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