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第55回 台湾の世代間格差


ニュース その他分野 作成日:2011年11月15日_記事番号:T00033744

台湾経済 潮流を読む

第55回 台湾の世代間格差

 11月5日、台湾で開催された人口問題に関するフォーラムに出席した。2010年に台湾の合計特殊出生率が0.9と世界最低水準にまで低下したことに対する危機感から、台湾の産官学から成るNGOが開催したフォーラムである。

 今年は中華民国建国100周年ということが理由で出生率が上昇し、12年は子供の生まれ年として縁起がいいとされる辰(たつ)年ゆえ、出生率が0.9よりは高くなるとの見方もあるが、こうした特殊事情を除くと、台湾の出生率が反転上昇する条件はまだ整っていない。

 台湾の少子化の理由として、日本同様、「未婚化」が挙げられる。台湾男性の生涯未婚率(45~49歳未婚率と50~54歳未婚率の平均値)は10年に10%を上回り、女性の生涯未婚率も8.4%にまで上昇している(00年時点ではそれぞれ5.8%、5.1%)。

 その背後には、経済的な要因が横たわっている。台湾行政院主計處が行ったアンケート調査では、20~39歳の未婚男性の34.8%、未婚女性の16.2%が経済的要因で結婚できないと回答している。実際、台湾の若年層(15~34歳)の失業率をみてみると、10年の4.5%から10年には8.0%にまで上昇している。08年の労働基準法改正による強制退職年齢が60歳から65歳に延長されたことに加え、そもそも労働者の賃金の下方調整が行いにくい労働法制になっていることが、就業経験に乏しい若年労働者にとって不利となっている。しかも足下、雇用情勢が厳しくなってきており、若年労働者にそのしわ寄せがいく恐れもある。

 また、社会保障給付の面からみても、世代間格差が台湾にはある。台湾の社会保障給付額の対GDP比は07年時点で9.6%と、OECD平均の19.3%、日本の18.7%の半分程度でしかない。その上、日本同様、そのうち約半分が年金などの老齢者向けに配分されており、現役世代への配分が少ない(図表)。例えば、3歳未満の託児費は、世帯可処分所得(中位数)対比で平均23.0%、3歳以上6歳未満の託児費は同12.1%と、決して育児負担が軽いわけではなく(10年)、託児費補助、子育て・教育関連の手当て・減税を求める声は強い。


(注)07年実績。OECD平均は加盟国の単純平均。「失業」と「住宅」のOECD平均値は公表されていないため、それぞれ07年のデータが存在する33カ国、30カ国の単純平均をみずほ総合研究所が計算した。
(資料)OECD、OECD Statistics等によりみずほ総合研究所作成

 加えて、全民健康保険、労工保険、国民年金も保険料率の引き上げなくして、維持することはできないとの試算が発表されており、現役世代の負担が今後重くなる可能性もある。

子育て支援で「日本化」回避

 これらの問題を放置すれば、出生率の改善は望めないし、仮に将来出生率が上がったとしても、出産年齢女性人口が大きく減ってしまっていれば、高齢化率は下がらない。既に台湾の20~39歳の女性人口は02年の374万人をピークに減少傾向にあるが、02~10年での減少率は年平均0.4%にとどまっている。しかし、行政院経済建設委員会の低位推計では、10~20年の年平均減少率は0.8%となり、20~30年には2.1%にまで達する。

 むろん馬英九政権も少子化対策をしていないわけではないし、「黄金十年 国家願景」という次期総統選の公約の中でも子育て世代の託児費用、経済的負担を軽減するための施策があげられているが、有効な少子高齢化対策を急いで打ち出さなければ、台湾経済・社会の活力は失われかねない。「日本化」回避のために台湾に残された時間は短い。

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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