ニュース その他分野 作成日:2012年3月13日_記事番号:T00035909
台湾経済 潮流を読む台湾にとって米国は中国、香港に次ぐ第3位の輸出先だ(台湾の2011年輸出総額に占めるシェア11.8%)。中継貿易港としての性格が強い香港を除くと、米国は台湾にとって実質的に第2位の輸出先といえる。その米国が台湾のライバルと呼べる韓国との間でFTA(自由貿易協定)を締結し、3月15日に発効することが確実な情勢にある。
中華経済研究院が行ったシミュレーションで、米韓FTAによる関税引き下げが台湾マクロ経済に与える影響は限定的との結果が出ている。その影響度は、台湾の輸出の0.06%減少、GDP(域内総生産)の0.04%減少と試算されている。そもそも米国の名目平均関税率は3.5%、工業製品だけでみれば3.3%と比較的低いことがその大きな理由だろう。
ただし製品別にみた場合には不利となるものもある。台湾、韓国ともに米国に輸出している品目のうち、今後米国が韓国にゼロ関税を適用することになっているのは2,489品目(10年時点のHS8桁分類、台湾の対米輸出総額の約3分の1)。このうち、1)今後、韓国との関税率の差が4.6%以上開く品目 2)米国市場における台湾製品の競争力が韓国製品と比べて圧倒的に強いわけではない品目(米国の輸入額に占める台湾製品のシェアが韓国製品のシェアの2倍以下)──といった基準に照らした場合、(A)アパレル製品・靴下・バッグ・靴(B)プラスチック製品(エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ABS樹脂等)(C)機械類(旋盤、マシニングセンター、非高級機械部品等)などが影響を受けやすいと経済部工業局は認定している。
こうした状況を受けて、台湾の関係政府当局は、事前にさまざまな対策を講じてきた。昨年10月に台湾の関税率が4.3%以上の輸入品については輸出時に還付を受けられるようになり、化学、プラスチック、紡織品、木製品、電気・電子、金属製品など1,210品目の輸入品が還付対象品目に指定された。それ以外に業種別にマーケティング、人材育成、製品高度化・高付加価値化などの面で、政府がサポートをするとの方針が打ち出されている。
他国とのFTA拡大が課題
これらの政策自体、影響緩和という意味で意義があるが、やはり台湾が他国とのFTAにどの程度つなげられるかという点が最も大事な問題だろう。
まずは、シンガポールとのFTAが妥結できるかだろう。台湾の中にはサービス業などでシンガポールに対する自由化に対して慎重な声があるようだが、それ以上に中国側がシンガポールと台湾のFTA締結にどのような対応を示すのかが注目される。02年には中国政府が台湾・シンガポールFTAの検討に対して不快感を示し、その後交渉が頓挫したからだ。中国の学者のなかには、中国とFTA締結済みの国であれば、WTO(世界貿易機関)加盟時の名称である台湾・澎湖・金門・馬祖独立関税地域の名義で台湾と中国の国交保有国がFTAを結ぶことを容認してもよいとの声があるが、どうなるか。馬政権の対中政策の手綱さばきが問われている。
その他にも、さらに難度の高いものとして米国との貿易投資枠組み協定(TIFA)に向けた道筋をつけられるかという課題がある。まずは米国産牛肉の「痩肉精(成長促進剤「ラクトパミン」)」問題の解決が馬政権には課せられている。その解決なくして、馬政権が中期的目標として掲げるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加への糸口は探しにくいだろう。
他方で、日中韓FTAの正式交渉入りが今年5月開催予定の日中韓サミットで宣言される可能性が高まっている。ECFA(海峡両岸経済協力枠組み協議)で台湾がひとまず先行した形になっているが、ECFAの後続協議で、台湾がさらに頭一つ日韓を抜け出せるかが試されている。
こうした通商交渉を先に進めるためにも、台湾内における産業競争力の強化を図らねばならないが、液晶パネル、DRAM産業の苦境は、日本同様、台湾に対しても産業政策のあり方の見直しを迫っている。いわゆる「二番手戦略」、「追随戦略」を超えた産業フロンティア開拓の試みを政府がいかにサポートするのか。総合的なイノベーションシステムの見直しが求められている。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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