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第62回 中国の景気対策で台湾に落ちる利益は?〜中台分業関係の今後の試金石〜


ニュース その他分野 作成日:2012年6月12日_記事番号:T00037626

台湾経済 潮流を読む

第62回 中国の景気対策で台湾に落ちる利益は?〜中台分業関係の今後の試金石〜

 中国経済は大丈夫か、中国経済まで腰折れすることはないか、と問われることがこのところ多い。

 確かに今の中国経済は自立的な回復力を欠いている。外部環境の悪化により輸出の実質伸び率は今年第1四半期には前年同期比3.2%まで低下、欧米の状況から判断して、輸出の力強い回復は期待しにくい。それゆえ、輸出セクターを中心に、設備投資も弱含みしやすく、一般機械部門で「意図せざる在庫増加」が生じている。また、投機抑制策を契機に住宅市場の調整も起こっているため、建材部門の生産在庫バランスも悪化している。個人消費も、リーマンショック後の自動車・家電購入促進策の失効や息切れなどから減速している。

 それでも中国物流購買連合会の製造業PMI(購買担当者景気指数)が昨年末以来改善傾向を示していたことから、今年第1四半期に実質GDP成長率が前年比8.1%まで低下した後、景気は反転するとの見方が広がっていたが、4月の工業付加価値生産額の伸びがさらに一段低下し、PMIも5月に年初来の低水準を記録(図)、今ではそれほど楽観視はできないとの雰囲気が漂うようになっている。



中国の省エネテレビ購入補助で恩恵

 実際、中国政府も5月に入り、景気対策を強化し始めた。法定預金準備率の引き下げのほか、1)重要プロジェクトに対する融資促進 2)低中所得者向けの政策支援型住宅の建設加速 3)公共投資の審査加速 4)鉄道などインフラ事業等への民間企業の参入規制の緩和 5)減税措置の適用地域拡大や期間延長──などの措置が短期間のうちに繰り出された。

 これらの政策は、リーマンショックの時と同様に、在庫の積み上がりで苦しむ地場の建材メーカーにとっては干天の慈雨となっても、台湾企業にはそれほど多くの恩恵は及ぼさないだろう。

 しかしながら、6月1日から始まった省エネ型薄型テレビに対する購入補助金支給策は、台湾液晶パネルメーカーにも恩恵を及ぼし得る政策だといえる(1台当たり100〜400人民元の補助金を暫定1年間支給、「節能産品恵民工程高効節能平板電視推広実施細則」2012年5月25日)。中国テレビ大手6社向け液晶パネル出荷シェアで、奇美電子(チーメイ・イノルックス)が33%、友達光電(AUO)が21%ものシェアを握っているからだ(今年第1四半期、本紙12年5月3日号)。

パネル対中投資、産業空洞化懸念も

 ただし、気になる情報がある。中国6大テレビメーカーが昨年来、地場パネルメーカーからの調達を増やし始め、今年第1四半期には11%のシェアに達したという情報だ(本紙12年4月24日号)。しかも今年4月から液晶パネルの関税率が3%から5%に引き上げられている。台湾企業を含む海外企業にとっては不利だ。

 こうした中、今回の薄型テレビ購入促進策を契機に、中国テレビメーカーの調達構造がどのように変わり、台湾液晶パネルメーカーの戦略にいかなる影響を及ぼすのかが注目される。それが液晶パネルをめぐる中台間分業関係の今後の方向性を示すと考えられるからだ。特に注目されるのが、台湾液晶パネルメーカーの対中投資のスピードに与える影響だ。

 また、果たして台湾液晶パネルメーカーが中国に進出した場合、台湾に残った部材メーカーが勢いを増した台湾系液晶パネルメーカーの中国生産現法への輸出を増やして台湾経済を支えるのか、それとも液晶パネルメーカーに随行して中国生産比率を一気に高めるのか。後者の場合には、台湾がいわゆる「産業空洞化」に陥るリスクも高まる。

 今般の中国の薄型テレビ購入支援策は、こうした一連の問いに対する答えがわれわれの眼前に示されるタイミングを早めるのではないか。その政策効果と台湾経済への影響を注意深く見ていく必要があるだろう。

みずほ総合研究所   アジア調査部中国室長   伊藤信悟 

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