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第64回 日本企業から見た中台投資保護協定の意義


ニュース その他分野 作成日:2012年8月14日_記事番号:T00038775

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第64回 日本企業から見た中台投資保護協定の意義

 8月9日、中台投資保護協定(正式名称「海峡両岸投資保障和促進協議」)が締結された。

 それまで中台間には、双方が合意した投資保護協定はなかった。台湾側は、頻発する台湾企業の中国でのトラブルを予防、解決するためには、同協定を結ぶ必要があると1990年初頭から中国側に呼びかけてきた。これに対し、中国政府は、台湾企業との投資にかかわる紛争はあくまで「国内」問題であり、協定は不要、「台湾同胞投資保護法」に代表される中国の「国内法」で保護すれば事足りるとしてきた。

 しかし、馬政権が発足し、中国企業の対台湾投資の解禁が進む中、中国側にも中台投資保護協定の必要性を認める機運が生まれた。主権をめぐる中台間の対立が依然残っているため難産とはなったが、09年9月の交渉開始から約2年の月日を経て、中台投資保護協定が産声を上げることになった。

 では、日本企業から見た場合、この中台投資保護協定にはどのような意義があると言えるだろうか。

 在台日系企業も保護対象に

 第一に、在台湾子会社を通じて対中投資を行う際の保護度が増す。これまで多くの在台湾日系企業は、台湾企業同様、中国と投資保護協定を結んでいる国、ないしはその国に所属するタックスヘイブンなどに会社を設立し、それを経由させる形で中国に投資してきたが、十分な保護は受けられなかったとみられる。しかし今後は、中台投資保護協定による保護が受けられるようになる。台湾で実態的にビジネスを行っていれば、在台湾日系企業も同協定上、台湾法に基づき設立された「台湾企業」と認定されるからである。[1]。

 台湾とのビジネス上の係争は「国内」問題と主張する中国側の強い反対の結果、同協定発効後も、対中国政府、対中国企業の投資紛争処理に際し、第三国・地域の仲裁機関に調停や仲裁を依頼することはできない。こうした制約はあるものの、中国の仲裁機関・司法機関しか事実上使えないという状態から開放され、台湾側の仲裁機関を活用する道が開かれることは意義深い。

 第二に、今回の協定締結が中国企業に対する台湾での投資規制の緩和に弾みをつけ、それが日台アライアンスにも影響を及ぼす可能性が高まる。

 今回の協定には、投資規制の削減が努力目標として盛り込まれた。しかも、台湾政府内では、台湾の経済成長率が2%を割ることへの懸念から、産業再生、経済活性化のために中国からの投資をもっと受け入れるべきだとの声が強まっている。また、ECFAの後続協議で台湾側は中国側に早期かつ大幅な市場開放を要求する予定だが、その代わり台湾側も中国側に市場をいっそう開放しなければならなくなる。技術を求める中国側の思惑も重なり、液晶パネル産業に代表されるハイテク産業の開放が進む可能性が高まっているようにみえる。

 これらの産業は日台アライアンスの焦点ともなっている産業だ。今回の協定締結により、中台間の投資に関わる通商交渉の重点は、「保護」から「自由化」へと移る。中国企業の台湾市場への参入、中台アライアンスの活発化が自社にどのような影響をもたらすのかについて思索をめぐらしておく必要がありそうだ。

 [1] ちなみに、台湾経由で対中投資を行う場合、日中韓投資協定の対象とはならない。同協定の保護対象は、あくまで日本の法律に基づき設立された企業だからである。 

みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟

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