ニュース その他分野 作成日:2012年11月13日_記事番号:T00040430
台湾経済 潮流を読む10月31日に今年7~9月期の実質GDP成長率の速報値が発表された。結果は、前期比年率で3.5%と低水準にとどまった。それを受けて、行政院主計総処は12年通年の実質GDP成長率の予測値を8月時点よりも0.6%ポイント下方修正し、1.1%にまで引き下げた。台湾経済の低成長の背後に世界経済の減速があることは論を待たないが、それだけではなく、台湾の産業特性やイノベーションシステムの問題が横たわっているように思われる。この問題を液晶パネル産業の分析を通じて考えてみたい。
台湾液晶パネル産業の後退
2000年代の台湾製造業の台湾域内での投資は、電子部品だけで全体の6割を占めてきた。中でも投資拡大の立役者となったのが液晶パネル産業である。台湾の液晶パネル産業は、台湾内の余剰資金をかき集めて、技術が体化された高額な製造設備を購入することを通じて急速なキャッチアップを遂げ、台湾経済の成長を支えてきた。
しかし09年以降、台湾の主要液晶パネルメーカーはほぼ一貫して赤字の状態にあり、投資の勢いが削がれている。友達光電(AUO)の資本支出は11年の569億台湾元から12年には420億元に、奇美電子(チーメイ・イノルックス)の資本支出は11年の447億元から12年には半分以下の180億元に抑制される見込みであり、景気弱含みの一因となっている。
少ない研究開発費
液晶パネルメーカーの業況悪化の原因にはさまざまな要因があるが、構造的な側面に目を向けると、研究開発投資の少なさ、カバレッジすなわち「のりしろ」の少なさにあるように思われる。前者に関しては、AUO、奇美電を見ると研究開発支出の対売上高比率は05~11年にかけて0.9~2.2%と、サムスン電子の6.0%、LGDの2.8%(いずれも11年)と比べて低水準である。後者については、台湾液晶パネルメーカーは、液晶テレビ用の大型パネルの開発にあまりに資源を集中させすぎたきらいがある。
戦略が裏目に、新市場で後手
後者についてもう少し細かくみてみよう。2000年代半ばまでは、台湾液晶パネルメーカーはガラスベースのAMOLED(アクティブマトリクス式有機EL)パネルを次世代パネルの一つと位置づけ、その研究開発に資源を投じてきた。しかし、06年頃にはAMOLEDの歩留まり改善の難しさ、市場規模の小ささなどを理由に台湾液晶パネルメーカーはAMOLEDの開発から手を引いてしまった。
政府系研究機関である工業技術研究院も、民間企業が手を引いたガラスベースのAMOLEDの研究開発には資源を投じなくなっていき、特にAMOLEDの量産技術に関しては、資金的制約を抱える工業技術研究院(工研院)には民間企業の肩代わりをするだけの体力はそもそもなかった。こうしてガラスベースのAMOLEDの開発は台湾のイノベーションシステムの中から抜け落ちることとなってしまった。
こうした中、台湾企業は、液晶パネル、特に大型液晶パネルの研究開発に傾注していくことになったのである。
他方、韓国企業は、同時期に研究開発の「のりしろ」を拡大させるという戦略を採った。AMOLEDの開発から撤退した日本企業などから特許を大量に買い集め、AMOLEDの開発にまい進し、AMOLEDパネルを用いた携帯電話などの市場投入を加速させたのである。
08年に世界金融危機が起こると、大型液晶パネル市場は、先進国における液晶テレビ市場の飽和も重なり、コモディディ化が進展、台湾液晶パネルメーカーの戦略は裏目に出る結果になってしまった。
代わってスマートフォンやタブレット型パソコンに代表されるモバイル機器用の中小型液晶パネルやAMOLEDが新市場として立ち上がったが、台湾メーカーはそれらへの適応が遅れてしまった。台湾メーカーもこの需要構造の大きな変化を受けて、08年末からAMOLEDや中小型パネル重視に転じたが、それらの製造技術は成熟段階には入っておらず、設備を導入するだけでは歩留まりが容易には改善しない。歩留まり改善のためには自前の研究開発を拡充させる必要があるが、赤字下ではなかなか研究開発投資を拡大しにくい。
垂直統合度の弱さネックに
なぜ韓国メーカーと比べて台湾メーカーの研究開発の「のりしろ」は狭くなってしまったのだろうか。その大きな一因は、垂直統合度の弱さにあるように思われる。
例えば、サムスン電子の場合には、自社ブランドの最終製品に用いることを前提とした次世代パネルの開発を行いやすい。他方、台湾液晶パネルメーカーの場合、自前の最終製品を持たないか、持っていても販売台数が少ない。それゆえ、市場の立ち上がりの道筋が見えるまで、研究開発資源を次世代パネルのために大量投入することを手控える傾向が強い。しかも、現在は、パネルが用いられる最終製品の多様化が進んでいるために、研究開発の対象を以前に増して絞りにくくなっているように思われる。
こうした中、台湾液晶パネルメーカーは、技術を持つ日本企業との提携で研究開発の「のりしろ」の狭さを補う一方、アップルや中国メーカー等への売り込み強化で最終製品市場との距離を縮めようとしているようにみえる。この戦略の両輪が機能するかどうかは、台湾経済の先行きにも深遠な影響を与えずにおかないだろう。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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