ニュース その他分野 作成日:2012年4月10日_記事番号:T00036425
台湾経済 潮流を読む台北市士林区の都市再開発用地における元地権者の立ち退き問題(いわゆる「文林苑」問題)で、台北市の対応、内政部主管の「都市更新条例」をはじめとする法規不備の問題などが大きな関心を集めている。それと比べると注目度は低いようだが、同時期に馬英九政権が住宅政策を大幅に変更するとの方針を打ち出した(3月29日)。
2010年10月、住宅価格の高騰に対する不満に対応するため、馬政権は政府主導による社会的弱者向け住宅の建設を約10年ぶりに再開すると発表した。具体的には、「合宜住宅」(市場価格より安い価格で住宅を販売)、「社会住宅」(市場価格より安い価格の公営賃貸住宅を供給)の建設である。また、行政院経済建設委員会も「現代住宅」(地上権のみを市場価格より安価で売却、土地所有権は売却せず)の実験を始めるとの方針を11年に固めた。これらの住宅建設の推進は、今年1月の総統選挙時の馬政権の公約にも盛り込まれた(「黄金十年 国家願景(黄金の10年、国家ビジョン)」)。
公約の意義と方針転換
しかし、李鴻源内政部長は、総統選から3カ月未満で方針の大幅転換を発表した。3月29日の立法院内政委員会で、1)現在執行中の計画を除き、これらの住宅の新規建設をすべて停止する。2)持ち家普及ではなく、借家の利用を奨励するため、家賃補助の拡充を図る。との方針を示したのである(3月30日付ワイズニュース)。
その理由として、李内政部長は、住宅市場の調整により空室率が高くなっている中、政府がさらに住宅を建設して財政に負担をかけるよりも、民間の空き家の利用が増えるよう、家賃補助を積み増したほうが良いと説明している。また、低所得者向けの賃貸用集合住宅である「社会住宅」を建設すると、近隣住民から自宅の資産価値が下がるとの批判の声が上がっていることも、方針転換の理由だと説明されている。
後者のような現象が生じていることは悲しいことだが、前者の理由については合理的だと言える。そもそも公営住宅政策が「弱者支援」という性格を強く持つ以上、持ち家よりも借家を優先し、住宅を購入する財力のない社会的弱者を救済すべきである。しかも、空室率が高いのであれば、政府がわざわざ住宅ストックを積み増す必要性は乏しい。対岸の中国で政府が自ら低所得者向け住宅の大量建設に乗り出しているのは、出稼ぎ労働者の増加に低所得者向け賃貸住宅の供給が追いついていないという現象が大都市中心に起こっているからである。台湾とは基礎的な条件が異なるため、比較の材料とはならない。
現在、「文林苑」問題で批判を受けている李内政部長であるが、公約を早々に見直し、公共債務法が定めた上限に近づきつつある政府債務を抑制しようとしていることは十分に評価されるべきである。むろん有権者との約束である公約を軽んじるべきではなく、政策立案のあり方を再考する必要はあるだろう。しかし、公約がそもそも不適切、あるいは状況の変化により不適切となったのであれば、早期修正に努めるべきだし、そうした動きを正当に評価すべきである。日本の現状はそうなっているだろうか。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
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