ニュース その他分野 作成日:2012年5月15日_記事番号:T00037083
台湾経済 潮流を読む馬英九政権が間もなく2期目を迎える。馬政権1期目における台湾最大の変化が対中経済交流の枠組みの変化であることは論をまたないだろう。具体的には、次の3つが変化の特徴として指摘できる。
第一に、対中経済交流の「正常化」の加速である。台湾の歴代政権は、中国との主権をめぐる対立や産業空洞化懸念などから、中国に対して差別的な通商政策を適用してきた。しかし、それでは中国市場を狙う韓国企業や先進国企業にみすみす商機を奪われてしまうとの財界の不満が高まったことから、馬政権は対中差別的な経済交流規制の削減を進め、中国を他国とできる限り同等に扱おうとしてきた。
その結果として、中国人観光客の受け入れ規制の緩和が進み、2010年には日本を抜き中国が最大の観光客の送り手となった。航空旅客直航便の定期便化も行われ、いまや週558便まで増便可能で、直航可能な空港の数も台湾側が11、中国側は37を数えるに至っている。中国資本の対台湾投資も解禁され、条件付きながらも、製造業の96.7%、サービス業の50.9%、公共建設の51.2%が中国資本に開放されるようになっている。金額別・業種別の対中投資規制の緩和も一段と進められ、ハイテクメーカーにとって対中投資が行いやすい環境が作られた。
第二の変化は、優遇措置の相互適用の開始である。かつて中国が統一戦略の一環として台湾企業・製品に対して一方的に優遇措置を適用したことはあったが、中台間の海峡両岸経済協力枠組み協議(ECFA)の発効により、部分的とはいえ、互いに優遇措置を適用するようになった。これは中台関係史初の特筆すべき変化の一つである。
第三の変化は、政府間協力の始まりである。「架け橋プロジェクト(搭橋専案)」による中台産業協力のための会議開催、中国の省長クラスの訪台調達ミッションなどは、中台の政府間協力なくして実現は不可能であった。また、中台交流窓口機関のトップ会談の定期化、ECFAに基づく両岸経済合作委員会の開催、通商関係機関の事務所の相互設置など、公的なレベルにおける経済交流の制度化も進められた。
これだけ多くの構造変化がこの4年間に起こったが、2期目も同様のスピードで対中経済交流をめぐる新たな「実績」が作れるか、また台湾側にとって有利な条件で交渉をまとめられるかとなると、やはり1期目より難度が増すことは間違いない。
妥協を迫る中国
中でも注目されるのが、ECFAの今後の行方だが、開放の度合いを高めていけばいくほど、台湾内で空洞化懸念の声が強まる可能性が高い。台湾製造業の1人当たり実質賃金は、2000年を100とすると、07年に104.7にまで上昇した後低迷し、11年時点でも100.5にとどまっているが、所得の伸び悩みと対中経済交流を関連づける実証研究もないわけではない。馬政権は、ECFAのアーリーハーベスト(早期実施措置)の対象となった267製品のうち、中国製品の輸入増によりダメージを受けた製品は現時点ではないと結論づけているが、交渉の進展に伴い、労働集約型産業を中心に懸念、反対の声が上がる可能性は高いだろう。
また、日中韓の自由貿易協定(FTA)、ないしは、中韓FTAが正式交渉入りする公算だと伝えられているが、それが中国にとって新たな対台湾カードとなることも考えられる。中国がこれらのFTAとECFAを天秤(てんびん)にかける形で、台湾に妥協を迫る道が開けるからだ。
さらに、妥協を求められる分野が経済を超えて政治に及ぶ可能性も否定し得ない。馬政権になってからも、台湾の対中輸出依存度、対中輸入依存度(対中輸出入額をGDPで除した数値)はじりじりと上昇傾向をたどっている(11年時点でそれぞれ19.5%、9.3%)。対外直接投資に占める対中投資のシェアも引き続き高水準で、ここ4年も概ね6~7割で推移している。上述のとおり、中国が台湾にとって最大の観光客の送り手となってもいる。このように対中依存度が高まる中、12年1月の総統選の前に台湾財界が「92年の共通認識(92共識)」支持、対中関係への配慮重視の声を挙げたが、中国との交渉が厳しさを増すに伴い、馬政権が対中関係を重視せよとの台湾内部からの圧力にさらされる可能性もないとはいえない。
次期総統選が照準に入り、レイムダック化する前に、台湾内部を固めて中国との交渉をまとめられるか。馬総統の本領が試され、歴史的評価が決まるのはこれからである。
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室長 伊藤信悟
台湾のコンサルティングファーム初のISO27001(情報セキュリティ管理の国際資格)を取得しております。情報を扱うサービスだからこそ、お客様の大切な情報を高い情報管理手法に則りお預かりいたします。
ワイズコンサルティンググループ
威志企管顧問股份有限公司
Y's consulting.co.,ltd
中華民国台北市中正区襄陽路9号8F
TEL:+886-2-2381-9711
FAX:+886-2-2381-9722